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2013年の中国経済の展望(特任教授 柯隆)




12月27日  特任教授 柯隆
世界主要国の政策当局にとり、2012年はたいへんな一年だったに違いない。景気が減速するなかで景気を下支えするオーソドックスな金利政策を実施する余地はそれほどないからだ。そのうえ、主要国政府が動員できる財源が限られ、大胆な財政政策の出動もできない。結局のところ、中央銀行が直接流動性を放出する量的緩和が日米を中心に行われている。

実は、大胆な金利政策と財政政策が実施できない意味では中国も同じ状況にある。今年の7月と8月、それぞれ一回ずつ小さな利下げを実施したが、それ以外明確な金融緩和政策が実施されていない。

では、このまま中国の景気は減速していくのだろうか。

確かに、2012年に入ってから実質経済成長率は第1四半期8.1%、第2四半期7.6%、第3四半期7.4%と減速の一途を辿っている。しかし、10月に入ってから中国景気の風向きが少し変わっている。鉄鋼、アルミ、セメント、板ガラスといった建材・不動産関連産業で景況感がわずかながら改善されている。

財政政策も金融政策も実施されていないのに、なぜ景気が少し改善されているのだろうか。それは地方政府の「努力」によるところが大きい。温家宝首相は住宅バブルを懸念し、景気の引締めを徹底しているが、このままでは、財源が枯渇する地方政府は破綻しかねない。中国では、地方政府による地方債の発行が原則的に禁止されている。

10月に入り、引退を目前にする温家宝首相の影響力が低下し、地方政府はこれをチャンスとみて、ひそかに不動産建設など都市再開発を再び始めたのである。現行の制度では、都市再開発に伴う土地の払い下げ代金は地方政府に帰属する財源になっている。多くの地方政府はこの土地代をあてに市庁舎や地下鉄などのインフラ投資を行ってきた。

結論的に言えば、このまま、住宅バブルをコントロールする政策を続ければ、一部の地方は債務危機に陥りかねない。しかし、かといってここで安易に金融緩和政策を実施すれば、住宅バブルは再燃する可能性が高い。まさにディレンマである。

マクロ経済の常識では、景気が減速する局面において金利を引き下げ、市中により多くの流動性を流し込み、景気を浮揚させることが求められる。もし金利を調整せず、流動性だけ増やしたら、いずれインフレ再燃のリスクが高まる恐れがある。実は、この点は2013年の中国経済が直面する新たなリスクである。

マクロ経済計画の策定を担当する国家発展改革委員会張平主任は、2012年第4四半期の成長率が第3四半期より少し高めになるだろうと楽観的な見通しを示した。このまま行くと、2012年の経済成長率は政府が掲げた7.5%の成長目標を少し上回り、7.8%前後の成長になると推察されている。

しかし、景気が少し改善に向かっているといっても、中国経済の潜在成長力からみれば、本領発揮までには到底いかない。世界銀行の試算では、中国の潜在成長力(労働の供給、資本ストックと全要素生産性)は9%に近いといわれている。現在の中国経済が本来の成長力を発揮していない背景には、生産性の向上が遅れていることがある。

こうしたなかで2013年の中国経済を展望すれば、中国経済には種々の不確実性が含まれているが、外需が少し良くなる可能性と習近平新政権の改革に対する期待から、二けた成長こそ望めないが、8%台半ばの成長になる可能性が高いと思われる。

最後に、来年3月に正式に誕生する習近平新政権は種々のリスク要因に直面している。そのなかで経済成長の維持については、短期的に高成長を実現するよりも、いかに安定した成長を実現するかが重要な課題である。安定した成長を実現するには、財政・金融制度を改革し、国有企業を民営化する必要がある。すなわち、外需から内需への経済成長モデルの再構築を図るために、資本効率と設備効率を高めなければならない。同時に、家計の消費性向を高める必要があり、そのためには、所得の伸びに対する期待がかかるようにしなければならない。