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グローバル化時代の消費をめぐる地域性と普遍性(副センター長、副学長、国際関係学部教授 富沢壽勇)




1月9日  副センター長、副学長、国際関係学部教授 富沢壽勇
グローバル地域センターで私は「アジアの消費行動の多様性」プロジェクトに関わることになったので、この場を借りて同プロジェクトの背景にあった私なりの問題意識をまずは述べておきたい。

従来日本の製造業はアジアを低コスト「生産の場」とし、その生産品を日本市場や欧米市場で販売してきたが、これからは「消費の場」としてのアジアが注目される(川端基夫 2011)。少子高齢化、人口減少、消費減退などで日本の国内市場が縮小に向かっている反面、アジアを中心とした新興国における消費が急速に拡大している現実を考えれば、日本企業がこのような国外市場に眼を転じていくことが求められるのも道理である。他方、アジア市場は「未知の地平」であり、多様な社会・文化背景をもつ人々の消費行動、ライフスタイルの理解が必須である。それぞれの地域特性を的確に把握し対応できる人材の育成はますます重要になっていく。今日世間でかまびすしく要請されているグローバル人材とは、産業界においては、まさにこのような異文化横断的で実践的な知識を備えた人々のことであるとみなすべきではなかろうか。

「未知の地平」ということでもう一点、日本はこれまで未開拓だった産業分野にもっと挑戦してもよいと思う。たとえばイスラーム圏を中心に展開しているハラール産業である。イスラームでは豚肉や酒など、摂取したり触れたりすることが禁じられるものがあるため、ハラール産業はムスリムが消費可能な(「神が許した=ハラール」)食品、医薬・化粧品、衣料品から輸送・貯蔵、金融・保険、観光業などにいたる広域の商品・サービス群を扱う産業の総称として認知されている。ムスリムが消費できる商品であることを保証するハラール鑑定・認証制度も世界各地で体系化が進んでいる。欧米の多国籍企業などは、世界人口の4分の1にも迫るムスリムの巨大市場に早くから目ざとく着手し、各商品をハラール仕様にして市場シェアを拡大してきた。我国ではイスラームや宗教に対する偏見や無関心もあって、同市場へのグローバル次元での取り組みは大幅に遅れている。とはいえ、最近では来日したムスリム観光客を饗応できるハラール仕様の料理店、ホテルや観光ツアーを提供する旅行会社なども登場し始めているので、さしあたり、本邦でのハラール・ツーリズムの進展に期待したい。

ハラール産業は、グローバル基準ですでに国際的にも品質や安全性が保証された商品に、新たにハラールという付加価値をつけたものを中心に構想されつつあり、実はムスリムのみならず、非ムスリムの消費者も積極的に引きつけるべく、より巨大な市場をターゲットに据えている。要するに、グローバル化時代の経済活動は、地域特性に柔軟に即応できる個別戦略が必要とされる一方で、より普遍性の高い商品を開拓していくことも同時に求められる。当センターの研究プロジェクトがそのような双方向的なチャレンジに多少なりとも資するところがあれば幸いと考える。