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SDGsとハラール産業(副センター長 富沢寿勇)


1月16日  副学長・国際関係学部特任教授 富沢壽勇
 周知のように、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」(2015年採択)は2030年までの15年間にわたる国際社会の行動規範・指針を示すもので、17のゴールと169のターゲットから成る。同目標では気候変動対策や水陸生物の保護なども謳われているが、「持続可能な」という言葉が直接修飾するのは「開発(発展)」であり、実質的には旧来の経済成長モデルが国際次元で制度化され体制化されたものと言ってよい(齋藤『人新世の「資本論」』2020)。このように国際的なお墨付きを得たSDGsの行動規範・指針は行政や企業にも一定の拘束力を持ち、本学も含めて人材育成に関わる多くの大学、教育研究機関にも影響力を及ぼしつつある。

 SDGsの大きな特徴は「経済・環境・社会」の三側面を統合的に対処しようとする発想にある(沖他『SDGsの基礎』2018)。ちなみにESG(環境・社会・ガバナンス)投資といった考え方も近年国際的に広く浸透し、企業も短期的な利益追求の側面からのみならず、気候変動対策、労働環境の適正化、リスク管理などの総合的な対応能力も求められ、そのような長期的側面から評価される傾向も強まっている。CSR(企業の社会的責任)という考え方も主張されるようになって久しいが、これも経済活動と社会や環境との関わりを再認識することが重要であるという発想に由来するのであろう。

 ところで、意外と思われるかもしれないが、SDGsはイスラーム圏を中心としたハラール産業と発想法をある程度共有していることに気づかされる。両者はそれぞれ目的も背景となる価値観も異なるものの、いずれも近年同時代的に展開してきたのも事実である。ハラール産業とは、飲食品、医薬・化粧品、衣料品などイスラーム教徒が消費することの許された商品(ハラールは「神が許したもの」を意味する)を生産する産業やそれに関わるあらゆる原材料の調達網、商品の物流、さらにはイスラームの価値規範に則った金融や観光の分野などのサービス産業までも網羅する包括的な産業群の総称である。そのハラール産業研究者たちの中にはSDGsがハラール産業と共通の考え方に立脚していると主張する人々がいるのである。具体的には、ハラール産業が立脚している「イスラーム法の目的(目標)」(マカーシド・シャリーア)は5つの原理(宗教の保護、生命の保護、理性の保護、子孫の保護、資産の保護)から成り、その射程はSDGsの目標群とほぼ合致する、要するにイスラームには本来SDGs的な考え方が備わっているといった趣旨の議論である。実際、SDGs自体がかなり総花的で幅広い領域に及んでいる一方、ムスリムの生き方の指針としてのイスラーム法も同様に幅広い領域に及ぶため、同法に準拠したハラール産業とSDGsとが互いに呼応するというとらえ方はもちろん可能だが、これはあまりに抽象度が高い比較で、さほど生産的議論とは思えない。

 SDGsとハラール産業との相似点としてむしろ着目したいのは、いずれにおいてもサプライチェーン、バリューチェーンが重要な位置づけになっていることである。ハラール産業では生産品の原材料の調達網のハラール性が問われ、ハラールサプライチェーンの一貫性が要請される。また「農場・飼養場から食卓まで」というスローガンが示すように、生産・流通から消費に至る全過程でハラール性が担保されるようなハラールバリューチェーンが求められる。他方、SDGsでは、特に目標12「責任ある消費と生産」(「持続可能な消費と生産の形態確保」)で大量生産・大量消費から舵を切り直す行動変容が求められつつ、公共調達などを中心にサプライチェーンが重視され、また、大企業や多国籍企業は財務情報のみならず、サプライチェーンを通じた環境、労働、人権、贈収賄に関するリスクへの対応状況など、非財務情報の開示も義務化される傾向も強まっているようである(黒田「持続可能な公共調達から考える」前掲書所収、2018)。要するに、SDGsもハラール産業も一定の社会倫理や宗教規範とサプライチェーンとの整合性が期待され、したがってサプライチェーンの透明性が求められる点が共通している。

 また、 SDGsにおいては「持続可能な調達」に焦点を絞った国際規格( ISO20400)など、規格化、標準化が進行しているようであるが(黒田、前掲書)、ハラール産業では、そもそもその制度化の当初から適正製造規範(GMP)、適正衛生規範(GHP)、危害分析重要管理点(H A C C P)、さらに最近では品質管理のためのISO9000シリーズや食品安全管理に関わるISO22000などの国際規格がハラールの規格化、標準化に取り込まれてきた経緯がある。こうしてみると、ハラール規格は今後さらにSDGsの国際規格をも取り込んで行く可能性がある。他方、SDGsがさらに規格化、標準化を推し進めて行こうとする場合、逆にハラール規格の要件を適宜取り込んで行く可能性もまったく考えられないわけでもない。というのも、SDGsには「誰一人取り残さない」という基本理念があり、イスラーム圏、非イスラーム圏を問わず、ステークホルダーとしてのムスリムは大方の国や地域に存在するからである。