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小康状態の米中関税戦争の行方と日中経済戦争の可能性 (特任教授 柯隆)


静岡県立大学グローバル地域センター 
特任教授 柯隆

(UnsplashのDmitry Romanoffが撮影した写真)

 火花をちらつかせた米中関税戦争は両国の国内事情により一時的に小康状態になっている。具体的にトランプ大統領は米国のインフレ再燃を心配して中国に対する制裁関税を引き下げた。トランプ大統領が中国に譲歩するもう一つの事情は来年秋の中間選挙を意識しているからである。一方、習近平政権にとっては日々深刻化している中国経済の減速が気がかりである。とくに有効需要が落ち込み、企業が設備投資を先送りしている結果、若者失業率は高止まりしている。なによりも景気が減速する局面において所得格差は拡大している。中国社会は不満と鬱憤が充満している状況にある。結果的に習近平政権はやられたらやり返すという従来の「戦狼外交」姿勢を改め、トランプ政権に譲歩したのである。

 一方、高市首相の国会答弁に反発する習近平政権は日本に対して、あの手この手を使って高市政権に圧力をかけている。今のところ、経済制裁の度合いは必ずしも高くないが、レアアースの禁輸措置や日本製品不買運動の呼びかけなどいくつもの対日制裁カードを温存している。とりあえず習近平政権は日本への観光や留学の自粛を呼び掛けており、日本からの水産物の輸入を実質的に停止している。これらの措置は日本にとっていずれも実害の小さいものだが、制裁のテストケースとして高市政権の反応をみる意味もあるだろう。

 むろん、習近平政権が求めている高市首相の国会答弁の撤回について高市政権はそれに応じることができない。その趣旨はすでに習近平政権に伝えているといわれている。したがって、習近平政権は日本に対して制裁をさらに強める可能性もある。ここで注目したいのは日中経済戦争の可能性である。

 報道によると、日本は中国向けのフォトレジスト(感光剤)の輸出を停止したといわれている。中国半導体メーカーは半導体製造に欠かせないフォトレジストを輸入できなくなり、中国の半導体製造に支障を来す可能性が高い。逆に、習近平政権が日本に反発してレアアースの輸出規制を発動して、日本製品不買運動を呼び掛ける可能性を排除できない。そうなれば、日中経済戦争が全面勃発してしまう。

 これからの日中関係を展望すれば、簡単には折り合わないと思われる。繰り返しになるが、習近平政権は高市政権に国会答弁発言の撤回を求めている。それに対して、高市政権は発言の撤回を拒否している。両国の関係はこのまま平行線のまま推移する可能性が高いが、経済戦争に発展する可能性が出てくる。

 むろん、心配されるのは単純な経済戦争だけはない。経済戦争が激化すれば、習近平政権が高市政権に対する報復措置として、中国在住の日本人ビジネスマンに対して反スパイ法を適用させて逮捕する可能性も出てくる。言うまでもないことだが、日中経済戦争のいかなる措置も喧嘩両成敗であり、日中のいずれにもマイナスな影響を与えることになる。

 本来ならば、高市首相の国会答弁に異議があれば、両国は話し合って解決策を模索すべきだが、今の日中両政府には話を取りまとめるキーパーソンがいない。しかも、今までのいきさつのなかで、日本人の対中国民感情は悪化している。この点について、先般の参院選の結果からも覗うことができる。それに対して、習近平政権はトランプ政権にさえ、やられたらやり返す姿勢をみせているため、日本との経済戦争を恐れない姿勢をみせるだろう。

 今のところ、日中関係が改善する兆しがみえておらず、両国関係の悪化は相当長期化すると予想される。当面は、習近平政権が冷静になるまで待つしかない。一定期間のクールダウンを経て、再び両者がテーブルに付けば、解決策が模索されると思われる。その間、日本企業は両国の経済戦争のエスカレーションのリスクを管理することにもっと注力しないといけない。