論文の紹介
ページ内目次
- 測位衛星データに機械学習技術を適用し初期の津波の可視化に成功
- 熊本地震の本震前に本震発生の兆候を示す特徴があったことを発見
- 2021 年 3 月と 5 月に続けて起きた宮城県沖の地震
- 地吹雪の最中に観測される強い電場の原因を解明
- 地震予測研究の現状について
- b値にもとづく大地震発生予測のモデルのレビュー
- 小さな地震がカギになる直下型大地震の研究 ~本学教員の成果が『Nature Communications』に掲載~
- 仮想現実を用いて南海トラフの監視強化を支援する
- 2016年熊本地震後の日奈久断層帯を監視する手法を開発
- 火山地域の様子を微小地震で探る
- 南海トラフ巨大地震の震源域における力の状態の推定
- b 値に基づく全地球規模の大地震発生予測のモデル
- 日本の地震観測網の性能評価: 1920年代からの変遷を解明
- 平成28年熊本地震に先行した地震活動
- M7.3の熊本地震の兆候があった可能性がある
- マクロな流動変形は、ミクロな無数の破壊が繰り返し起きれば説明可能
測位衛星データに機械学習技術を適用し初期の津波の可視化に成功
宇宙空間となる高度300 kmの電離圏では、津波によって”津波電離圏ホール”とよばれる現象が津波発生領域直上に発生します(図1)。津波電離圏ホールとは、大地震による津波がインフラソニック波(可聴でない超低周波の音波)を引き起こし、それが大気圏および電離圏中を伝搬した結果、津波の初期波源上の電離圏の電子が消失する事象を指します。国土地理院が設置した日本全土1,200点ある測位衛星受信局のデータを用い、機械学習でノイズ除去やデータ点間の補間などを行い、津波電離圏ホールの形状を捉えることに成功しました。そのデータを用いて、早期津波予測の精度向上に大きく貢献する津波の初期波源の形状を推定しました(図2)。
本研究における機械学習を用いたデータ解析では、測位衛星受信点が1,200点のうち仮に5%しかなくとも、1,200点すべての受信点を用いた場合と同じ結果を得ることができました。このことから、今後は測位衛星の受信点が日本ほど多くない他国においても本手法を適用することで初期の津波を可視化できると期待されています。
発表論文
タイトル:Robust uncertainty quantification of the volume of tsunami ionospheric holes for the 2011 Tohoku-Oki earthquake: towards low-cost satellite-based tsunami warning systems
著者:
- Ryuichi KANAI (金井龍一) (University College London 大学院生 / Alan Turing Institute 客員研究員)
- Serge Guillas (University College London 教授 / Alan Turing Institute フェロー・グループリーダー)
- Alan Smith (University College London 教授)
- 鴨川 仁(静岡県立大学グローバル地域センター 特任准教授 / 認定NPO 法人富士山測候所を活用する会 専務理事・事務局長)
- 長尾年恭(東海大学海洋研究所客員教授 / IUGG Inter-Association "EMSEV" Chair)
URL:https://nhess.copernicus.org/articles/22/849/2022/nhess-22-849-2022.html
オンラインによる論文公開日:2022年3月15日
図1:津波電離圏ホールの発生と測位衛星・受信機による測定の概念図。
図2:2011年東北地方太平洋沖地震における津波電離圏ホールと津波の初期波源の重なり。青色で示された領域が従来の津波研究手法による事後算出した初期の津波波源の領域。赤色は、地震発生22分後の津波電離圏ホール(論文の図より引用)。
〒420-0839 静岡県静岡市葵区鷹匠 3-6-1 もくせい会館 2 階
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E-mail:glc(ここに@を入れて下さい)u-shizuoka-ken.ac.jp
2021 年 3 月と 5 月に続けて起きた宮城県沖の地震
地吹雪の最中に観測される強い電場の原因を解明
認定NPO法人富士山測候所を活用する会富士山環境研究センター源泰拓特任研究員、静岡県立大学グローバル地域センター鴨川仁特任准教授らは、国立極地研究所、寒地土木研究所および北海道大学との共同研究で、地吹雪発生時の電場を調査しました。地吹雪中の雪粒の多くが負の電荷を帯びていることから、雪粒の分布と帯電量を基にしたシミュレーションを実行・検討した結果、この発生する強い電場の原因は、帯電した雪粒が計測機器(図2)のセンサー電極に衝突することであることを突き止めました。
本研究の成果を応用すると、地吹雪の規模を電場の変動で監視できるので、北海道など寒冷地で視程障害・交通障害をもたらす地吹雪のモニタリングや予測に電場データを用いることが可能になります。さらに、火星における砂嵐で発生する放電の観測と探査機の保護、工場などで粉塵爆発を防ぐための状態監視など、様々な分野への応用が考えられます。富士山のような極域に似た環境にある山岳地域において、地吹雪や雪崩の監視・予測への貢献も期待されます。
発表論文
タイトル:Origin of the intense positive and moderate negative atmospheric electric field variations measured during and after Antarctic blizzards
著者:
- 源 泰拓(認定NPO法人富士山測候所を活用する会 富士山環境研究センター 特任研究員)
- 鴨川 仁(静岡県立大学グローバル地域センター 特任准教授 / 同NPO法人 専務理事・事務局長)
- 門倉 昭(国立極地研究所 教授)
- 大宮 哲(寒地土木研究所 研究員)
- 平沢尚彦(国立極地研究所 助教)
- 佐藤光輝(北海道大学大学院理学院 教授)
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0169809521003689
論文公開日:2021年8月18日
図1 2015年9月23日の、雪粒の数、電場の観測値、風速の推移。
世界標準時の8時ごろに風速と雪粒の数が増し、地吹雪が観測されている。これに伴って、約2 kV/mの電場が観測された。
図2 昭和基地で屋外の電場を測定する機器(フィールドミル回転集電器)。
地震予測研究の現状について
b値にもとづく大地震発生予測のモデルのレビュー
小さな地震がカギになる直下型大地震の研究
~本学教員の成果が『Nature Communications』に掲載~
本研究の成果は、Nature関連誌の総合科学ジャーナル『Nature Communications』※1 (2 Year Impact Factor: 11.878、5 Year Impact Factor: 13.811) に2020年6月17日(日本時間18:00)付けで掲載されました。
本研究は文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)と日本学術振興会による科研費(20K05050)の助成を受けたものです。
掲載された論文
○論文ページ
https://www.nature.com/articles/s41467-020-16867-5(外部サイトへリンク)
本研究のポイント
- 本研究では、小さな地震と大きな地震の発生数の割合を示す指標「b値」に着目しました。一般に地殻内に大きな力がかかっていると大きな地震の発生数が相対的に増え、b値が低くなる傾向が知られています。カリフォルニアの小さな地震が漏れなく高精度で検知されており、きめ細かい解析が可能であると見抜いた事で、本研究が可能となりました。
- 1980年以降に起きた膨大な数の大小の地震活動を統計処理し、リッジクレスト地震の発生前に、震源付近のb値が低下していた事を発見しました(図1)。つまり、マグニチュード(M)6.4の地震とM7.1地震の両方の破壊開始点(震源)付近で地震発生前に力が高まり、耐えきれなくなって、地震が起きたというメカニズムが示唆されます。また、現在、断層の南端部だけb値が低下している事から、今後も推移を監視していく必要があります。
- その断層南端に近くに、約300kmの長さを持つガーロック断層があり、地質学的調査で、大地震を起こしてきた形跡があると分かっています。もしb値の低下が見られる断層南端部で、地震活動が再活発化すれば、ガーロック断層へ影響を与える可能性があり、ガーロック断層で地震を誘発する可能性もあり得ます。リッジクレスト地震以降、ガーロック断層への影響が危惧されていましたが、本研究では科学的根拠に基づいてその可能性が指摘できた点で意義があると考えています。
図1:
楠城特任准教授のコメント
- 一般的に地震を確度高く予知する事は現状では困難と考えられており、本研究も地震予知ではありません。しかし、カリフォルニアの地域住民に、研究で明らかになった地域の特性を知ってもらい、防災対応の再確認を事前にしてもらうなどを促せる様に情報発信したいという国際貢献の動機が本論文の出版の背景にあります。
- 近年、地震の監視観測網が充実して多くの微小地震を捉えられるようになり、よりきめ細かい解析ができるようになったと感じています。例えば、ここで紹介する研究以外にも、南海トラフ巨大地震の想定震源域の固着領域を検出する事に成功したり※2、熊本地震を起こした布田川・日奈久断層帯に現在力のかかり具合が他の地域と違う地域がある事を見つけたりしています※3。これまで地震の危険度は過去の繰り返し間隔を基に評価するのが一般的でしたが、それ以外の方法で危険度の高まりの程度を評価し、注意喚起できるようにさらに研究を進めていく予定です。また、本研究を富士川河口断層帯や伊豆東部火山群、富士山の地下の監視などにも応用できる可能性があり、現在プロジェクトが進行中です。
- 静岡県にも活断層帯はあり、例えば、上述の富士川河口断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属しています。本記事をお読みの皆さまが防災意識を高め、いつ地震が起きても対応できる様に、改めて防災に対する対応を再点検するきっかけになればと思います。
※1 Nature Communications は、生物学、物理学、化学および地球科学のあらゆる領域における高品質な研究を出版するオープンアクセスジャーナルです。Nature Communicationsに掲載される論文は、各分野の専門家にとって非常に意義のある重要な進歩を示したものです。
https://www.natureasia.com/ja-jp/ncomms(外部サイトへリンク)
※2 南海トラフ巨大地震に関する研究成果『Nature Communications』に掲載(2018年3月16日ニュース)(外部サイトへリンク)
※3 2016年熊本地震後の日奈久断層帯を監視する手法を開発(2019年9月5日)(外部サイトへリンク)
関連リンク |
◎Nature Communications (英語) https://www.nature.com/ncomms/ ◎Nature Communications (日本語) https://www.natureasia.com/ja-jp/ncomms/ |
仮想現実を用いて南海トラフの監視強化を支援する
2016年熊本地震後の日奈久断層帯を監視する手法を開発
南海トラフ巨大地震の震源域における力の状態の推定
『Nature Communications』掲載論文
『Nature Communications』掲載ページ(英語版)>
※詳しくは、当センター「研究情報」の掲載ページをご覧ください。
関連リンク |
b 値に基づく全地球規模の大地震発生予測のモデル
日本の地震観測網の性能評価: 1920年代からの変遷を解明
平成28年熊本地震に先行した地震活動
M7.3の熊本地震の兆候があった可能性がある
マクロな流動変形は、ミクロな無数の破壊が繰り返し起きれば説明可能
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