11月分
ニュース:FEMA見直し審議会の答申案は廃止に反対
米トランプ政権が連邦危機管理庁(FEMA)の実質的廃止と災害対応の州への移管を視野に入れて2月に設置したFEMA見直し審議会が、廃止に反対する答申案をまとめたと、ニューヨークタイムズが11月19日に報じた。続いてワシントンポストやAP通信も、審議会の共同議長でありFEMAを所管するノーム国土安全保障長官が、答申案に反対し、大統領に提出する前に短く書き直していると報じた。審議会の委員は、共同議長のノーム長官とヘグセス国防長官のほかは、共和党の地方政治家、フロリダ州・テキサス州の危機管理局長、FEMAのベテラン職員である。ハリケーンに脆弱でFEMAの被災地支援に頼る州の住人が多い。トランプ大統領も、7月にテキサス州中央部の洪水被災地を訪れ、FEMAへの態度を和らげていた。ノーム長官らは12月中旬に大統領に最終的な答申をおこなうとみられる。FEMAを廃止する場合は議会の立法が必要となる。
(2025年11月20日)
(2025年11月20日)
ニュース:米国で歩行者の交通事故死が増え続けている
米国で交通事故死する歩行者の増加について、ワシントンポストが調査報道した。2010年には歩行者4302人が交通事故死したが、23年には7314人へと70%増えた。ある年に歩行者が死亡した地点を1マイル(1.6キロ)以内に3人分以上含むクラスターは、2010年には全米で275か所だったが、23年には3倍以上の825か所に増えており、増加率はテネシー、ノースカロライナ、アリゾナなど南部・南西部の州でもっとも高い。スピードを出す車の多い片側3車線以上の道路沿いで死亡した歩行者が多く、とくに、衰退した商業地を含む経済的に困窮した地域を通る幹線の沿道で多い。さらに貧困、ホームレス、薬物・アルコール依存、歩行者安全対策の欠如といった状況が重なり、米国特有の車による死のパターンが形成されているという。こうした地域では、車のない人は歩かざるを得ない一方、酩酊や薬物使用のせいで無理な横断をして事故死した人も多かったと分析している。他の先進国では2013-23年に歩行者の死亡率はほぼ30%下がっており、米国は外れ値となっている。
(2025年11月19日)
(2025年11月19日)
ニュース:米ボルチモアの橋に船が衝突した原因は電線のラベル
米国家運輸安全委員会(NTSB)は、メリーランド州ボルチモアのフランシス・スコット・キー橋にコンテナ船「ダリ」が衝突し、橋が崩落した2024年3月26日の事故の原因の分析を、ワシントンでの公開の会合で発表した。船内の電線1本の小さなバンド状のラベルがずれて、電線が端子の奥まで挿入されず、締め具が作動しなかったので、電線が抜けたときに船が停電し、推進力も操舵能力も失ったという。「ダリ」は全長300メートルのネオパナマックス船で、幅213メートルの航路帯を航行していた。この事故では橋の修理作業員6人が死亡、米東海岸第4位の港湾が24年6月10日まで閉鎖され、橋は再建されていない。NTSBは、州運輸局が橋の脆弱性を評価していなかったため、船に衝突された場合も崩落を防ぐように工事されていなかったことや、修理作業員に退避するよう知らせる通信手段がなかったことも指摘した。
(2025年11月18日)
(2025年11月18日)
ニュース:FEMA長官代行が辞任
FEMA(米連邦危機管理庁)のデヴィッド・リチャードソン長官代行が11月17日付で辞任した。前任のキャメロン・ハミルトン氏が解任された5月8日から長官代行を務めていた。両名とも、FEMA長官指名者に法律上求められる防災・危機管理分野の経験がなかった。元海兵隊中佐のリチャードソン氏は今年1月から国土安全保障省の大量破壊兵器対策担当次官補を務め、FEMA長官代行に任命後も兼務していた。ワシントンポストによると、トランプ政権はハリケーンシーズンが公式に終わる11月30日ころにリチャードソン氏を解任することを計画しており、本人も、11月末以降は長官代行でないだろうと、庁内の会議で発言していた。後任のカレン・エヴァンズ氏は、サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)やエネルギー省で政治任用者としての経験があり、今年7月からFEMAの顧問を務めていたが、政権が上院に承認を求めるのかは明らかでない。
(2025年11月17日)
(2025年11月17日)
ニュース:エチオピアでマールブルグ病に感染した3人が死亡
致死性の高いウイルス性出血熱のマールブルグ病が、エチオピアで初めて発生した。同国保健省は11月12日、不審な出血熱をアフリカ疾病予防管理センターに通報し、同14日、南エチオピア州で死者3人を含む9人の感染を確認したと発表した。エチオピア当局はさらに検査と疫学調査を進めている。同センターによると、このウイルス株は、東アフリカで過去に流行したものと似ている。世界保健機関(WHO)も同13日、緊急支援チームと物資をエチオピアに送った。マールブルグウイルスはエボラウイルスと同じフィロウイルス科に属する。自然界ではコウモリが保持しており、人人感染の経路は体液との接触である。ワクチンも治療薬もない。致死率は、2023年の研究で61.9%と推定されている。
(2025年11月17日)
(2025年11月17日)
ニュース:EU当局がオンラインゲームプラットフォームの過激・暴力的コンテンツを削除
欧州刑事警察機構(ユーロポール)のインターネット照会課(EU IRU)は11月13日、オンラインゲームプラットフォーム等のテロリズムまたは憎悪に基づくコンテンツの摘発キャンペーン「照会行動の日」をおこない、複数の加盟国が多数のURLを通報した。デンマーク、フィンランド、ドイツ、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン、英国がDiscord、Steam、Twitchなどのプラットフォームで見つけて通報したコンテンツへのリンクは、イスラム過激派関連5408個、極右の暴力的過激主義・テロリズム関連1070個、人種差別・排外主義関連105個など。テロ攻撃や学校における銃乱射事件をゲーム中に再現し、その映像を編集して、より利用者の多いソーシャルメディアプラットフォームに投稿したコンテンツも多い。
(2025年11月17日)
(2025年11月17日)
ニュース:米国土安全保障省が不法移民摘発に職員を集中
米国土安全保障省はトランプ大統領の求めに応じて、数万人の職員を通常任務から不法移民の逮捕に振り向けているので、さまざまな犯罪捜査、テロ対策、他機関の法執行官の訓練などが滞っており、「国外追放省」と化していると、ニューヨークタイムズが報じた。児童に対する性犯罪、人身売買、テロリズム資金供与目的のイラン産石油密輸などの捜査が滞っているという。同紙は情報公開訴訟により内部文書を入手し、現政権下で同省に勤務した65人以上および州・自治体当局などを取材した。テロ対策情報の共有は、2001年の米同時多発テロを受けて同省が創設された主な理由だが、自治体警察当局者によると、提供される情報が大幅に減った。沿岸警備隊も、平時は同省の指揮を受けるので、逮捕された不法移民の移送に航空機を振り向けている。政権の不法移民追放政策の設計師であるミラー大統領次席補佐官は、移民・関税執行局(ICE)の予算3倍増と職員の66%増員に尽力した。
(2025年11月16日)
(2025年11月16日)
ニュース:サイバー攻撃の自動化にAIコードツールが悪用される
対話型生成AI「Claude」を開発したAnthropic社は、中国政府に支援されている疑いのあるハッカーが、Claudeを悪用して約30社にデジタル攻撃をおこない、うち4件で侵入に成功したと発表した。攻撃者は企業用の正当な防御タスクをおこなっているとClaudeに思いこませて、標的システムの調査、重要データベースのスキャン、カスタム攻撃コードの作成、ユーザー名やパスワードなど認証情報の収集、バックドアの作成といった処理をおこなわせることに成功した。最小限の指示を受けて自律的に行動できるClaudeの能力が悪用され、攻撃の80-90%が自動的に実行され、毎秒数千個のリクエストを送信するという、人間に不可能な速度で攻撃がおこなわれた。国家がAIを用いて自動化したサイバー攻撃の初めての例と考えられる。
(2025年11月13日)
(2025年11月13日)
ニュース:ポリオ野生株をドイツの下水中に検出
ドイツの公衆衛生当局は、ハンブルクで10月6日の週に採取した下水のサンプルから、ポリオ野生株1型(WPV1)を検出したことを欧州疾病予防管理センター(ECDC)に通知した。野生株の検出は、ドイツが環境サンプルによるウイルス監視を2021年に始めてから初めて。検出したWPV1のゲノムは、8月24日にアフガニスタン・カンダハルで採取された環境サンプル中のWPV1との関連を示している。ヒトのWPV1感染が続いているのはアフガニスタンとパキスタンだけだが、2019年にイランの環境サンプル、22年にマラウイとモザンビークの患者から検出されている。ECDCによると、欧州の住民はポリオワクチン接種率が高いので、今回検出されたWPV1によるリスクはきわめて低い。ECDCは接種率の維持、接種を確実に完了していない人の特定と彼らへの働きかけ、急性弛緩性麻痺(AFP)への注意と届出を臨床医に促すことなどを推奨している。
(2025年11月13日)
(2025年11月13日)
ニュース:カナダにおける麻疹の流行のため南北アメリカの排除認定を取り消し
カナダは麻疹(はしか)の流行が12か月以上続いているので、麻疹排除状態の認定を汎米保健機構(PAHO)に取り消されたと、同国の公衆衛生庁が発表した。これにより、PAHOは南北アメリカ地域の排除認定も取り消した。カナダでは2024年10月下旬以降5100件以上の感染例が報告されている。PAHOの本体の世界保健機関(WHO)は、伝播を12か月以上継続した麻疹ウイルスが存在しない状態を、排除状態と定義している。カナダは予防接種率の向上、監視体制の強化、迅速な感染対応による拡大阻止を目的とした行動計画を、PAHOに提示し実施することを予定している。PAHOは1998年にカナダ、2000年に米国、16年に南北アメリカ地域の麻疹排除状態を認定していた。
(2025年11月10日)
(2025年11月10日)
ニュース:アフガニスタン北部でM 6.2の地震
11月3日0時59分(日本時間5時29分)、アフガニスタン北部のバルフ州で地震が起き、31人以上が死亡、1172人以上が負傷、305軒以上の家屋が倒壊した。震源の約40キロ北西に位置する、バルフ州の州都マザーリシャリーフ(人口50万以上)も、震源のすぐ南のサマンガン州も被災した。
(2025年11月3日)
(2025年11月3日)
ニュース:英都市間列車内で複数人刺される
11月1日夜、イングランド北部からロンドンへ走行中の列車内で、乗客の男1人がナイフで11人を傷害した後、緊急停車した駅で乗り込んだ警察に逮捕された。列車は18時25分に始発駅ドンカスターを発車し、19時30分にピーターバラを発車後に事件が起きた。9両編成の4号車で事件が発生し、乗客が非常ベルを作動させた。乗客・乗員2人は犯人を止めようとして負傷した。乗客の緊急電話が19時39分、ケンブリッジシャー警察につながり、鉄道警察には同42分に伝わった。運転士も指令所に通報したので、列車は緩行線に入り、同44分に最寄りのハンティンドン駅に停車した。同47分までに武装警官が乗り込み、容疑者をスタンガン(テーザー)で無力化して逮捕した。別の黒人男性1人も逮捕したが、嫌疑なしで釈放した。容疑者の男は英国生まれ、ピーターバラ出身の32歳の黒人で、テロリズムとのつながりはないが、10月31日と11月1日のピーターバラとロンドンにおける複数のナイフ傷害事件の嫌疑が浮上している。
(2025年11月3日)
(2025年11月3日)
ニュース:ジャマイカ等にハリケーン・メリッサの甚大な被害
カリブ海で急速に発達したハリケーン・メリッサは、10月27日にジャマイカに上陸して甚大な被害をもたらし、同29日に上陸したキューバ東部や、両国の東に位置するハイチも被災した。熱帯低気圧の強さを中心気圧で定義すると、大西洋ハリケーンの中で史上最強、大西洋から上陸したときの強さも史上最強、2025年の熱帯低気圧では今のところ世界最強である。ジャマイカでは54人が死亡、109人が負傷、15人が行方不明となっており、住宅や農業の損害はGDP(国内総生産)の30%を超える。米フロリダ州の企業・団体、被災しなかったカリブ海諸国・地域などが救援物資・サービスを提供し、ジャマイカでの輸送を同国軍と米空軍が担っている。国連食糧計画、国連人口基金、カリタス・インターナショナルは物資をキューバ東部へ空輸した。米国務省は被災国に合計2400万ドル(37億円)を提供すると発表した。中国政府は太陽電池パネルなどの物資をキューバに送った。
(2025年10月30日)
(2025年10月30日)
ニュース:NOAAの気象・気候災害データベースが民間で復活
NOAA(米海洋大気庁)は今年5月、米国における被害額10億ドル以上の気象・気候災害のデータベースの更新停止を発表したが、民間の科学研究・コミュニケーション団体「クライメート」が復活させており、更新していく。1980年から2024年まで403件を含み、被害額は消費者物価指数により調整されている。24年までは年平均9件が起きたが、25年上半期には14件が起きており、被害額は合計1014億ドル(15.4兆円)にのぼる。そのうち600億ドル(9.1兆円)以上を1月のロサンゼルス林野火災が占める。
【関連リンク】
https://www.climatecentral.org/climate-services/billion-dollar-disasters
(2025年10月22日)
【関連リンク】
https://www.climatecentral.org/climate-services/billion-dollar-disasters
(2025年10月22日)
研究開発情報:NIHの助成金を米政府が打ち切り、臨床試験383件中断
米トランプ政権は国立衛生研究所(NIH)に対し、新型コロナウイルス感染症や多様性・公平性・包摂性(DEI)の取り組みなど政権の方針と異なる研究への助成金の打ち切りを要求し、数回にわたって対象を広げている。ハーバード大学医学大学院などの研究者が、2月28日から8月15日の間におこなわれていた臨床試験1万1008件を調べたところ、383件が助成金を打ち切られ、参加者7万4000人以上が影響を受けていた。連邦助成金を受領・管理していたNIH傘下の26の研究所のうち24か所が、4月8日までに合計181億ドル(2.7兆円)を打ち切られた。この金額のうち30%はまだ使用されていなかった。その383件のうち140件は完了したが、134件は参加者を募っていた。43件は、参加者が介入を受けている途中で助成金が打ち切られた。助成金を打ち切られた臨床試験の割合が多きい分野は、感染症14.4%、予防医学8.4%、行動介入5%の順だった。国際的な臨床試験は、米国内で完結する場合よりも影響を受けやすかった。リサーチレターは、不測の助成金打ち切りは追跡調査を妨げたり、データの品質を損なったり、分析の完了を妨げたりするおそれが強いと警告しており、JAMA Internal Medicine誌オンライン版に掲載された。同誌の編集者注は、臨床試験の中断や追跡調査の不足は、介入を受けた参加者に害をなすおそれがあるので、安全性とも有効性とも関係のない理由で研究費を打ち切るのは倫理的違反であると指摘している。
【関連リンク】
https://doi.org/10.1001/jamainternmed.2025.6088
(2025年11月17日)
【関連リンク】
https://doi.org/10.1001/jamainternmed.2025.6088
(2025年11月17日)
報告書など:国連難民高等弁務官事務所「ノー・エスケープII」
気候災害と紛争の悪循環が、難民・国内避難民と避難先の住民を閉じ込めている。極端な気象現象は災害復旧を妨げ、人道支援の需要を増やし、人々が繰り返し移住を強いられるリスクを高めている。戦争・暴力・迫害により、2025年半ばまでに1億1700万人が移住を強いられた。その75%は、気候ハザード(危険要因)にさらされる度合いが高い、または非常に高い国に住んでいる。過去10年間で気象災害によりのべ約2億5000万人が国内避難を強いられた。生存のための基本的なシステムに負担がかかっている地域が多い。2050年には、とくに暑い地域の難民キャンプは、熱中症を警戒すべき日が年間200日に近づき、健康と生存に対するリスクが高まる。環境劣化が各地の社会の課題を深刻化している。アフリカでは土地の75%が劣化しており、難民・国内避難民の移住地の過半数が、環境の負荷が高い地域にある。それゆえ食料・水・収入を得にくくなっている。サヘルで気候変動により生計を失った人が武装勢力に加わっているように、環境の負荷は紛争と強制退去の悪循環を加速させうる。その一方で、資金不足と不公平な気候資金制度のため、気候災害から守られていない人が多い。脆弱な難民受入国は必要な気候資金の25%しか得ていないし、世界の気候資金のほとんどは移住を強いられた人々にも彼らを受け入れる住民にも届いていない。移住者と受入先の住民は気候災害回復力を高める重要な役割を果たすことができるが、そのためには彼らが各国の気候計画に含まれ、対象を絞った投資により支援され、自分たちの将来の決定に参加を認められる必要がある。
【関連リンク】
https://www.unhcr.org/sites/default/files/2025-11/no-escape-ii-the-way-forward.pdf
(2025年11月発行、40ページ)
【関連リンク】
https://www.unhcr.org/sites/default/files/2025-11/no-escape-ii-the-way-forward.pdf
(2025年11月発行、40ページ)
報告書など:サイバースペース・ソラリウム委員会2.0「提言実施状況に関する2025年度年次報告書」
2019年に米議会が設置したサイバースペース・ソラリウム委員会の終了後、提言の実施状況を追跡するために作られた後継の非営利組織が発表した報告書。米国が自国と同盟国をサイバー脅威から守る能力は停滞し、一部の分野で後退している。昨年は48%の提言が実施済みだったが、今年は36%に減っている。提言を実施しても、投資が続かなかったり効果を持続させるための新たな取り組みが定着しなかったりする場合がある。技術の進歩は、米政府がセキュリティを確保する努力よりも速い。政権がサイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)の人員を3分の1減らし、国務省のサイバー大使を任命しないなど人事の問題も、サイバーセキュリティの勢いをそいでいる。一連の提言を実施するだけでは悪意あるサイバー活動の抑止・阻止と脆弱性軽減はできないので、本委員会は、重大なサイバー攻撃の確率と影響を減らすための重層的サイバー抑止というアプローチを設計した。米政府・議会による主要な政策の選択はこのアプローチを反映しているが、さらなる努力を要する。
【関連リンク】
https://cybersolarium.org/annual-assessment/2025-annual-report-on-implementation/
(10月22日発行、48ページ)
【関連リンク】
https://cybersolarium.org/annual-assessment/2025-annual-report-on-implementation/
(10月22日発行、48ページ)


