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第4回 中国人の高い貯蓄性向と中国経済へのインパクト(9月12日)


李克強首相はきっと大きな悩みを抱えている。持続可能な経済成長を実現するためには、輸出と投資の拡大に依存している経済成長を国内消費、すなわち、内需に依存するものに切り替えなければならないが、中国人の貯蓄性向が強く、それによって消費性向が低く抑えられている。中国の貯蓄率は50%を超えており、家計の貯蓄率は30%に上る。それに対して、消費率(消費のGDP比)は35%に止まる。

なぜ中国人の貯蓄性向がこんなに強いのかというと、社会保障制度がきちんと整備されておらず、将来の出費が予想されるためである。それゆえ、中国人は貯めたお金を単に銀行に預金するだけでなく、できるだけ収益を増やしていこうとする。

中国人はまとまったお金を貯めた場合、すなわち、住宅の頭金ぐらい貯めれば、間違いなく住宅を買い不動産に投資する。住宅の頭金ほど貯めていないが、それなりに貯めた場合、金やプラチナなどの貴金属や翡翠などの宝石類に投資する。それよりも少額のお金を貯めた場合、中国人は金融機関が販売する投資信託の金融商品、すなわち、「理財商品」に投資する。2014年8月20日現在、金融機関が販売する「理財商品」の利回りの加重平均は5.2%であり、1年ものの預金金利の3.75%を大きく上回っている。

このように整理してみれば、中国人はその金融資産を運用するにあたり、安全性や流動性よりも収益性をもっとも重視していることがわかる。すなわち、中国人の貯蓄行動は、ハイリスク・ハイリターン型のものなりがちである。その結果、中国の不動産市場はバブル化する傾向が強い。

2012年以降、中国の景気は減速している。本来ならば、李克強首相は景気を押し上げるために、金融緩和へ舵を切らなければならないが、不動産価格が高止まるなか、ここで金融緩和を実施すれば、不動産バブルはさらに膨らむ恐れがある。李克強首相は金融政策を大きく転換することができないでいる。

14年上期の経済成長率は政府が掲げる7.5%の成長目標を下回り7.4%だった。李克強首相は、大きくアナウンスしていないが、7月に金融緩和の方向へ舵を切った。具体的には、預金準備率を農業関連と中小企業向けという条件づきで引き下げた。それを受けて、商業銀行は貸出を徐々に増やしている。

李克強首相は、金融政策に関する舵取りにより景気を刺激しなければならないが、同時に、不動産バブルの再燃を警戒している。したがって、思い切った金融緩和はできない。一般家計は高い収益を期待して不動産に投資してきたが、小康状態にある不動産市場はこのまま安定を保っていくとは考えにくい。

様子見をしている投資ファンドと一般家計は、不動産市況が大きく下落すると確信すれば、手持ちの物件を投げ売りする可能性が出てくる。そうなれば、20余年前に日本が経験したバブル崩壊の轍を中国が踏むことになる。不動産バブルが崩壊すれば、住宅ローンを借りている一般家計は手持ちの物件を投げ売りしても、住宅ローンを返済できなくなる。そうすれば、中国版サブプライムローン危機が起きる。これまで人民元切り上げの為替差益を期待して中国に流れ込んだホットマネーは、元切り上げが一服するのを受け、不動産価格の下落で投資収益を実現できなければ、海外へ逆流しキャピタルフライトが起きる可能性がないわけではない。すなわち、中国発のアジア通貨危機が起きるということである。無論、経済危機を心配して大胆な金融緩和を実施すれば、バブルは再燃するだろう。李克強首相の悩みは当面続くものと思われる。