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第8回 2015年の中国リスク(1月29日)


2015年の中国経済について中国国内の専門家の多くは7%程度の成長になるだろうと弱気の予測を示している。唯一の楽観論者は世界銀行のチーフエコノミストを務めた北京大学林毅夫教授(経済学)である。同教授は、中国経済は向こう20年間、年平均8%の成長を維持できるといつも強気であるが、その根拠は明らかではない。

それに対して、海外の中国専門家の多くは中国経済の成り行きについて悲観視している。米国のアジア研究協会(AAS)が最近開催したシンポジウムでは、アメリカ人の研究者の多くは中国経済が高成長に戻ることはもはや不可能であり、中国経済の実力からせいぜい4%程度の成長となろうと展望している。

最近の原油安はグローバル政治のパワーゲームの結果であるが、中国の景気減速とも無関係ではない。ただし、景気減速は経済運営の結果である。中国のリベラルな経済学者の多くは今日の景気減速が胡錦濤政権のときに実施された4兆元(当時のレートで約56兆円)の財政出動の副作用の結果と指摘する。

習近平政権は胡錦濤政権からたくさんの負の遺産を引き継いだ。胡錦濤政権において中国社会は極端に不安定化するようになった。その不安定性を克服するために、胡錦濤国家主席(当時)は「和諧社会」(調和のとれた社会)づくりを呼びかけた。「和諧社会」づくりは胡錦濤国家主席が示した国づくりの方向だが、それを実現するためのミッションはまったく示されず、結果的に「和諧社会」づくりは絵に描いた餅に終わった。

習近平政権は景気を押し上げる財源を持っておらず、景気減速を前提に経済運営していかざるを得ない。李克強首相は7%成長を肯定的に受け入れ、構造転換をきちんと図っていくと就任当初から強調した。これはメディアではリコノミクスと呼ばれている。しかし、実際の中国経済は減速しているが、構造転換は遅々として進んでいない。

中国では、構造転換を邪魔しているのは国有企業などの既得権益集団である。構造転換を進めようとする李克強首相は国有企業の人事権を握っていない。その結果、リコノミクスは一時期中国国内で流行語だったが、2014年下期に入ってからまるで死語のようになっている。

今は、リコノミクスに代わって「新常態」(new normal)という造語が流行っている。新常態はいかにもポジティブな言葉のように聞こえるが、7%成長が常態化していくという意味である。繰り返しになるが、30年以上にわたり年平均二けた成長を続けてきた中国経済が7%成長に減速するのは自然なことである。問題はいかにして7%成長を持続しながら構造転換を図っていくかにある。

あらためて習近平政権誕生の意味を考えてみたい。ポスト鄧小平の歴代指導者(胡耀邦、趙紫陽、江沢民と胡錦濤)のいずれも鄧小平によって指名された者だった。唯一習近平は鄧小平によって指名された者ではない。習近平は党の長老の間の人気によって国家主席に指名されトップとなった。こうした文脈から、習近平国家主席は鄧小平路線を踏襲する義務などない。否、鄧小平路線はすでに行き詰ったので、習近平政権の誕生は鄧小平時代の終焉を意味し、中国を新時代に導かなければならない。

鄧小平路線は経済高成長を成し遂げたが、幹部の腐敗が横行し格差も信じられないほど拡大した。一部の者が先に豊かになることを奨励する「先富論」を打ち出したが、大多数の者がボトムアップされず、格差が拡大し、社会不安の原因になっている。2015年は習近平改革が本格化する改革元年になるかもしれない。ここで大胆な改革を進めなければ、中国社会はさらに不安定化する恐れがある。