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HOME >  中国展望 (特任教授 柯隆) >  2015年 >  第10回 年に一度の全人代の注目点(3月5日)

第10回 年に一度の全人代の注目点(3月5日)


北京で年に一度の全人代が開かれている。これまでの一年を総括し、これからの1年の経済政策と改革の方針が採択される予定である。過去1年間、60人以上もの省長・副大臣級以上の幹部が汚職によって拘束・追放された。今年の全人代の一番の注目点は、何と言っても習近平政権の人事である。2年後に習近平政権が二期目に突入するための準備として、新たに人事を行う必要がある。

むろん、汚職撲滅は終わったわけではない。中央レベルの「虎」が囚われているが、大型国有企業幹部の汚職撲滅はこれから本格化する。それは国有企業改革を推進する絶好のチャンスでもある。これまでの二年間、習近平政権は国有企業改革を推し進めようとしたが、失敗に終わった。国有企業は経済改革を妨げる一番の障害である。

所得格差の縮小も、習近平政権が掲げる改革目標の一つである。実は、共産党幹部や企業経営者の賃金所得は、低所得層と比べそれほど大きな格差はない。格差が拡大する原因は、目に見えない「陰性収入」の存在である。北京市に所属する中国国民経済研究基金の推計によれば、中国の「陰性収入」はGDPの12%に相当するといわれている(2012年)。「陰性収入」とは必ずしも違法なものではないが、ほとんど納税していないものである。

したがって、「陰性収入」を目に見える形にし、その金額に応じてきちんと納税しなければならない。しかしそれだけでは、所得格差を縮小させるには不十分である。働く者の可処分所得が経済成長とともに増えていくように、労働組合はきちんと機能するようにする必要がある。労働組合は労働者の利益を守る存在であるはずだが、現状ではほとんど機能していない。そのほかに、農民の利益を守るために、日本の農協のような組織も作らなければならない。

もう一つ注目されるのは環境問題である。2014年11月、北京でAPECが開かれた。APECの期間中、中国政府は周辺の工場の多くを稼働停止にし、建設工事現場も休みにさせられた。その結果、北京の人は久しぶりに青空を目にした。しかし、このような緊急措置では、環境問題は根本的に改善しない。中央電視台(CCTV)の記者は山西省での取材で小学生に「星空をみたことがある?」と尋ねたところ、その小学生は躊躇せず「ない」と答えた。中国の子供にとってきれいな空気は一番のぜいたく品になっている。

環境破壊はモラルハザードの結果である。政府のモラルハザード、企業のモラルハザードと市民のモラルハザードは環境を破壊してしまう。しかし、環境破壊が進めば、得する者はいない。往々にして環境破壊の責任者はその被害者でもある。自分が環境を破壊しなくても誰かが環境を破壊すると思うから、環境はよくならない。

中国がAPECのときの青空を取り戻すことができるかどうかは、まず政府が真剣に環境保全に取り組むかどうかにかかっている。

最後に、中国は全人代で、これからの経済成長率目標を従来の8%から7%に引き下げるといわれている。7%成長はNew normal、すなわち、「新常態」と表現されている。新常態とは、従来の高成長と区別して、中成長のことを意味する。しかし、新常態を保つには、きちんとした構造転換を実現しなければならない。具体的には、投資依存の経済から内需・消費依存の経済への転換、資源などの要素投入型の経済から効率を追求する経済への転換が必要である。習近平政権の経済運営は、これからが正念場である。