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第18回 原油安と中国経済の不確実性(2月18日)


世界経済は不確実性を増している。2015年12月、FRBはドルの利上げを踏み切ったが、その後のアメリカ経済と世界経済の動きをみると、ドルの利上げは時期尚早と言わざるを得ない。イエレン議長は議会において、特に中国経済の減速と不確実性について言及した。

中国経済は9%前後の高成長を続けることができないが、中国で何が起きているかは明らかではない。中国政府は7%前後の成長を「新常態」と定義しているが、来る3月初旬に開かれる全国人民代表大会で採決される李克強首相の政府活動報告で16年の成長率目標を6.5%-7%にするとみられている。

しかし、実際の経済成長率はもっと低いと推察されている。アメリカとイギリスのシンクタンクは現在の中国経済の成長率がせいぜい5%程度とみているようだ。2010年までの中国経済は満ち潮であったとすれば、今は、引き潮といえる。注目すべき点の一つは国際貿易の落ち込みと外貨準備の急減である。

すなわち、中国の輸出製造業の国際競争力が失われつつあり、投資家は金融資産を海外へシフトしている。これに対して、中国政府は人民元の切り下げを試みるが、キャピタルフライトにさらに拍車をかけてしまっている。キャピタルフライトを食い止めるために、中国政府は地下銀行の関係者を多数拘束しているといわれている。しかし、地下銀行を撲滅しても、キャピタルフライトは止められない。

否、地下銀行を完全に撲滅してしまうと、中国経済の深刻なダメージを与えることになる。なぜならば、民営企業の多くは短期の資金需要を地下銀行からの借り入れに頼っている。中国経済にとって地下銀行は不可欠な存在である。ただし、地下銀行が大きく成長すると、人民銀行(中央銀行)の金融政策の有効性が妨げられる。

中国経済が直面するもう一つの問題は原油安である。中国は1990年代のはじめ、石油の純輸入国になった。原油の生産国でない中国にとり、原油安は悪いことではないはずである。しかし、原油安が続くと、オイルマネーが引いてしまう恐れがある。人民銀行は量的緩和を実施し、人民元を供給することができるが、オイルマネーが引いているため、中国からのキャピタルフライトにさらに拍車をかけている。

これこそグローバル経済の難しいところである。先進国は景気を下支えするために、軒並みゼロ金利ないしマイナス金利が導入されている。ドルの利上げが実施されたが、上げ幅はわずかだった。それに対して、人民元の金利は貸出の基準金利でいえば、4.25%(1年もの)、定期預金は1.75%(同1年もの)である。人民元金利の高止まりは為替の切り下げを妨げている。

2016年の中国経済はまさに不確実性の年にあたり、その舵取りはかつてないほど難しい作業である。思い切った改革を行わなければ、中国経済は慢性的な停滞に入っていく可能性が高くなる。今のところ、中国経済はV字型回復する兆しはみられない。それよりも、L字型成長になる可能性が日増しに高まっている。しかも、経済の減退が加速すれば、外貨流出が勢いを増す可能性が高く、国内において地方政府の債務問題、国有銀行の資産の悪化、民営企業の倒産、外資系企業による海外への工場移転などが現実味を帯びてくる。中国経済のファンダメンタルズの改善に努めることが急務である。