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第28回 貿易戦争によって追い込められた習近平政権の行方(10月17日)


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国際貿易理論では、二国間貿易は必ずしも均衡しなければならないということはない。しかも、貿易赤字を喫する国は必ずしも実際に損するとは限らない。同様に、貿易黒字を享受する国は言われるほど得するとは限らない。たとえば、アメリカは中国との貿易で毎年5000憶ドル以上もの貿易赤字を喫しているが、アメリカの労働者が作れない安い商品と製品を輸入することでむしろアメリカ人は得する計算になる。

一方、中国にとって対米黒字は確かに大きな規模になっているが、最終製品を組み立てるために、中国は海外から素材や部品などを輸入しないといけない。したがって、中国の対米不均衡は、東アジア諸国を中心に集約されたものである。分かりやすくいえば、日本、韓国、台湾などの対米輸出は、工場が中国にシフトされたことで、その輸出も中国に集約されている。名目上、中国の対米不均衡が大きくなっているが、日本、韓国、台湾などの肩代わりをしているとの見方ができる。

むろん、このような冷静な考察はトランプ大統領には通用しないかもしれない。トランプ大統領が唱える米国第一主義は、貿易赤字が示す雇用の喪失を問題視し、雇用を取り戻すための考えである。確かに、中国にとって対米貿易黒字はお金の問題というよりも、雇用創出の意味が一番重要であろう。

米中貿易戦争が勃発してから、中国のGDPは大きく減少していない。月次ベースの対米貿易黒字はむしろ拡大している。おそらく海外から受注する工場の駆け込み需要によって売り上げが増えている。怖いのはこれから起こりうる反動である。

本来ならば、中国の一人当たりGDPは既に9000ドル前後に達しているため、中国企業の技術力もかなり強化されているはずである。しかし、残念ながら中国のハイテク産業の6-7割は外国企業によって支配されている。ITを中心とするニューエコノミーをみると、中国企業の強みは、もっぱら電子商取引(EC)などのプラットフォームである。金融サービス業についても同じである。国有銀行は一行あたり2万ないし3万か所の支店や営業所を構え、預金を集める力が強いが、金融商品を開発する力が弱い。

中国では、オールドエコノミーのほとんどは国有企業によって支配されている。そのオリジナルの技術は日本など先進国の企業から買収したものだが、それを進化させる力がない。たとえば、鉄鋼産業を例にとってみると、マンションなどを建設するときに使われる鋼材は中国メーカーが作れるが、発電機などに使われる鋼材は基本的に輸入に頼っている。

結論をいえば、技術力が十分に強化されないなか、突如としてアメリカによって輸出品に対して制裁関税がかけられ、価格競争力が低下した。短期的に、中国政府により人民元安誘導、法人税減税、輸出製造企業への補助金支給などの手当てが行われているが、効果は一過性のものに過ぎない。

重要なのは、技術競争力の強化である。今まで、中国の対米輸出はあまりにも順調だったため、政府も企業も技術革新にそれほど熱心ではなかった。習近平政権は二期目に入ったばかりで、これから長期政権を目指そうとしているが、アメリカとの貿易戦争にいかに勝ち抜くかよりも、落ち着いて技術を磨いていかないといけない。