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第31回 ネオ・チャイナリスク研究の重要性(4月9日)


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これまでの200年の歴史を振り返れば、日本は国力を著しく強化したとともに、中国との付き合い方において大きな過ちを犯した。歴史的にも今日においても、日本にとって中国の存在はあまりにも巨大である。経済学者によれば、清王朝まで中国の経済規模は一貫して世界一だったといわれている。日本の国際戦略の特徴は世界ナンバーワンの国と同盟を組んで生き残っていくことである。しかし、清王朝末期の中国社会は漢、唐、宋の栄光がまるでなかった。代わりに、衰退していく中国社会のもろさがくっきりと露呈していた。

明治以降の日本は年を追うごとに国力が強くなった。欧米諸国から取り入れた近代的制度は日本の産業技術力の増強に大きく貢献した。日清戦争と日ロ戦争の勝利は当時の日本人の自信を大きく高めた。その過剰な自信はのちの日中戦争と太平洋戦争へと日本を間違った方向へ導いた。第2次世界大戦の敗戦は日本にとって歴史的な教訓だったといえる。

戦後の日本はアメリカとの同盟関係を重視する反面、中国との付き合いについて慎重な姿勢を崩さなかった。1978年、中国は「改革・開放」へと方針を大きく転換した。門戸が開かれた中国を覗き込んだ日本人は誰もが驚いたはずだった。自分の師だった中国はどのようにしてここまで衰退したのだろうか。

NHKのドキュメント番組「中国の『改革・開放』を支えた日本人」は「改革・開放」当初から中国に協力した日本の財界人に逐一インタビューして綴った良い番組である。番組は1978年、最高実力者だった鄧小平の訪日の取材から始まったものだった。当時、中国は世界主要国に代表団を派遣して、経済復興の参考モデルにするのが目的だったが、最終的に日本モデルが採用されたといわれている。理由は二つ挙げられた。一つは、日本は格差の小さい社会で、もう一つは技術のキャッチアップが速かったことだった。

しかし、この番組に欠陥もあった。日本戦後の経済回復を支えたのは技術だけではなく、近代的制度、すなわち、議会制民主主義がその土台である。鄧小平が訪日にあたって、日本の国会と裁判所を見学しなかったのは残念だった。この番組は現象面の事実を羅列するだけでなく、もっと突っ込むべきだった。

最近の40年間を振り返れば、日本人は慎重に中国と付き合ってきた。中国の国力が予想以上に衰退したため、中国に協力するが、中国の内政に必要以上に関与しないようにしてきた。状況が大きく変わったのは10年ほど前だった。2008年、北京オリンピックとパラリンピックが開催された。その2年後、上海万博が開かれた。それに関連するインフラ整備も加わって、中国経済は一気にキャッチアップした。ちょうどこのときに、中国の経済規模は日本を追い抜いて世界二番目になった。

それを受けて、中国人の世界をみる目が大きく変わってしまった。それまで、日本の技術を謙虚に学ぼうとした中国人の目には日本などもはやなくなった。中国の照準は日本ではなく、アメリカになっている。確かに中国を訪れた日本人も中国の成長ぶりに圧倒されてしまった。かつてぼろぼろの北京の路地裏の「胡同」(フートン)は摩天楼に変わっている。

少し前のことだが、ある日本人の名士との電話で「今の中国は戦前の日本とよく似ていて、危険だ」といわれた。その文脈はおそらく中国人が持つ過剰な自信という意味において同じと言いたかったに違いない。結果的に中国外交は多くの国と喧嘩するようになった。従来、中国の覇権は世界にとって脅威になるといわれていた。今の中国外交は「戦狼」外交と呼ばれている。それによって国際社会は中国「戦狼」外交の怖さを実感するようになった。

1年前、新型コロナウィルスが猛威を振るって、感染があっという間に広がってしまった。約1年間、リモートで仕事をせざるを得なくなった。どのように研究を続けていくかをいろいろと考えた結果、中国社会に内在する従来のチャイナリスクと区別して、ネオ・チャイナリスク、すなわち、新しいチャイナリスクの研究に着手した。それは中国が国力を強化するとともに、国際社会との非協力的な姿勢に起因するリスクのことである。約1年間をかけて、「ネオ・チャイナリスク研究」の新著を取りまとめることができた。

結論的にいえば、中国の台頭によって国際秩序が乱れるようになった。新興国の中国は既存の国際ルールが先進国によって創られたもので新興国と途上国にとって不利なものになっていると指摘している。この指摘は決して不合理なものではないが、それを変えるにはきちんとした手続きを踏む必要がある。ルールが変更されるまで、それに従わないといけない。米中対立はこのような背景のなかで勃発し日増しにエスカレートしていった。これからいかにネオ・チャイナリスクを管理するかが国際社会にとり重要な課題となっている。