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第32回 五輪と政治の関係(12月9日)


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まもなく北京で冬季五輪が開かれる予定である。振り返れば、2008年北京で夏季五輪が開かれたとき、世界主要国で聖火リレーが北京五輪に反対する人権活動家たちによって邪魔され、大騒ぎになった。日本では、長野市善光寺の参道を走ったとき、聖火を守るグループとそれに反対するグループが小競り合いにまで発展してしまった。しかし、よくみると、聖火を守るグループのメンバーのほとんどは中国人であり、それに反対する人の多くも中国人だった。それぞれは祖国について違う思いをもって賛成と反対の活動を展開したのだろう。

中国政府にとって五輪開催は間違いなく国威発揚の好機と捉えている。2008年の夏季五輪も2022年の冬季五輪も同じである。本来ならば、五輪は平和な祭典であるはずだが、実際は恨みを助長するきっかけになっている。

否定のできない事実だが、中国の専制政治とその価値観は民主主義の価値観と相容れないものである。本来、オリンピックは選手が競技する平和の祭典であるはずだが、政争の具にされるのは歴史的に一回や二回だけではなかった。これから開催される北京冬季五輪についても、ここに来て米国を中心に外交的ボイコットが表明され、しかも、米国と価値観を共有する国々が米国に同調する姿勢を鮮明にしている。

むろん、北京冬季五輪に対して、外交的ボイコットが行われても、中国にとってとくに実害があるわけではない。どちらかといえば、開催国の中国政府の面子に泥を塗るだけである。中国の国内で、人権侵害を理由に自国開催のオリンピックが外交的にボイコットされることについて、反政府の人たちはいっそう反政府活動を活発化させる可能性がある。それに対して、ナショナリストの人たちは愛国の行動を強め、反米的な言動を展開してくる。中国社会が実質的に二分化されてしまう可能性がわずかながらある。

それは中国の内政問題として、外交的ボイコットが広がれば、国際社会における中国政府の威信が失墜してしまう恐れがある。これこそ中国政府がボイコット活動に反発する背景である。

国際政治学者の一部は習近平政権の外交を「戦狼外交」と表現している。その真意は習近平政権が国際社会に妥協せず、かたくなに対抗姿勢を示していることにある。とくに、ここ数年来、中国と世界主要国との関係が急速に悪化してしまっている。米中関係はもとより、カナダ、オーストラリア、イギリスなどとの関係も予想以上に悪化している。

なぜ習近平政権は世界主要国にもう少し柔軟な姿勢をみせないのか。

大きくいえば、二つの背景がある。一つは自信過剰によるものである。すなわち、中国の国力はすでに十分に強くなっているので、列強に妥協する必要がないと判断されているだろう。もう一つは自信不足によるものである。すなわち、日米欧などの民主主義の国々が中国の政権転覆を狙っていると思われている。だからこそ、中国国内の政治学の文脈では、日米欧は「外部反中勢力」と定義されている。これでは、妥協はおろかで平常心で話し合うことすらできない。

北京冬季五輪に対する外交的ボイコットは確かに実害が小さいかもしれないが、それを通じてみえるのは、中国と世界主要国との相互不信である。現在、中国と世界主要国の経済は相互依存関係を強化しているが、このまま、相互不信が深まれば、経済の相互依存も薄れていく可能性がある。政治指導者の度量が試される局面といえる。