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第33回 なぜ中国はゼロコロナ政策をやめないのか(3月16日)


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Ri ButovによるPixabayからの画像

 世界は2年以上にわたって、コロナ禍によって侵され、2022年3月15日現在、累計4億6000万人以上感染し、犠牲者は600万人を超えているといわれている。コロナ禍の1年目は世界が確かにパンデミックによってパニックに陥った。なぜならば、COVID-19と命名されたコロナウイルスの発生源すら解明できず、その感染経路も治療法もわからなかったからだった。結局、感染を防ぐには、人流を止める隔離措置しかなかった。
 
 その後、科学者の懸命な努力によってワクチンが開発され、治療の現場で医師たちは既存のウイルス感染症治療薬を組み合わせて四苦八苦して治療を試みることで治癒率を大幅に上げることができた。同時にウイルスは変異を重ね、その毒性も当初に比べ、かなり弱くなったとみられている。今、多くの先進国では、感染者が依然多く報告されているが、COVID-19というウイルスに対する恐怖心はほとんどみられなくなった。それどころか、ウィズコロナ、すなわち、ウイルスとの共存が図られている。

 なぜウイルスとの共存を図ろうとしているのだろうか。要するに、初期段階のような厳格な隔離措置は経済活動を遮断してしまうため、その代価があまりにも大きいからである。

 世界主要国の中で、唯一、ゼロコロナ政策を厳格に実施しているのは中国である。ゼロコロナ政策とは、感染をゼロにすることを目標に厳格な隔離措置をとることである。2021年12月、1300万人の人口を有する大都市西安で155人の感染者が見つかって、西安がロックダウンされた。2022年3月、1,900万人の大都市深センが同様にロックダウンされた。

 中国で実施されたロックダウンは住民を家に閉じ込めるだけでなく、全寮制の学校の場合、すべての学生を専用の宿泊施設に専用のバスで運び、集団隔離が実施される。それと同時に、すべての人に対して強制的にPCR検査を実施する。また、すべての人のスマホに専用アプリをダウンロードさせ、その行動が追跡される。一人でも感染者が見つかった場合、その人との距離によってアプリ上で危険度が赤(重度な危険)、黄色(中度な危険)、青(安全)と仕訳けられる。ちなみに、飛行機や高速鉄道などの公共交通機関を利用できるのは青の人だけになっている。

 このような厳格なゼロコロナ政策によって、中国で毎日の感染者数が低く抑えられている。しかし、その代価は決して低くない。人々の生活だけではなくて、経済活動も妨げられている。では、なぜ中国はゼロコロナ政策を続けるのだろうか。

 一言でいえば、中国政府がコロナウイルスの感染拡大を心配しているからであろう。しかし、それだけでは、説明はできない。なぜならば、上で述べたように、変異株オミクロンの感染性こそ強いが、毒性と致死率はかなり低くなっている。

 実は、中国の医療システムをみれば、その答えがみえてくる。日米欧などの医療システムは、大きな手術を施す必要のある患者こそ大病院に行くが、風邪などのちょっとした病気は近所のクリニックに行くことがほとんどである。それに対して、中国には小規模な診療所やクリニックが極端に少ない。重い病気だろうが、ちょっとした病気だろうが、人々は大病院に押し寄せてしまう。オミクロンの感染者が急増すると、医療システムが簡単に崩壊してしまう恐れがある。

 本来ならば、強靭化された医療システムとは、健康管理を担う小規模クリニックと診療所と重い病気を治療する大病院や専門病院のほか、感染症を専門に診る専門病院が必要である。日本では、大病院は一部の病棟を分離して緊急時に感染症を診る専門病棟にしている。医療崩壊を引き起こさないように、街中の診療所やクリニックは重要な役割を果たしている。

 したがって、中国はゼロコロナ政策を続ければ続けるほど、経済へのダメージが大きくなる。しかし、ゼロコロナ政策を安易にやめてしまうと、感染者が爆発的に増え、医療崩壊を引き起こす恐れがある。言い換えれば、中国はある種のディレンマに陥っているといえる。

 むろん、問題はそれだけではない。感染を防ぐには有効なワクチンの接種が重要である。中国は海外からワクチンをほとんど輸入しておらず、国産ワクチンの接種を推奨している。その接種実績をみるかぎり、中国の国産ワクチンの予防効果はそれほど高くないようにみえる。

 さらに集団隔離や集団PCR検査の現場状況を検証すれば、必ずしもソーシャルディスタンスが取られていないようにみえる。そのなかで二次感染が疑われている。

 コロナ対策はその国の行政の効率と医療システムの有効性を試すものである。2年前、COVID-19のパンデミックのとき、中国のようなゼロコロナ政策はある程度奏功したが、ウイルスそのものはすでに変異し、毒性が大幅に弱くなっている現状において、人々の生活と経済活動を守りながら、感染症対策を講じていく必要がある。なによりも、中国はグローバルサプライチェーンの中心的な役割を果たしている。大都市を安易にロックダウンさせるやり方では、世界経済にも深刻なダメージを与えることになる。ゼロコロナ政策からウィズコロナ政策への転換を期待したい。