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統制経済と経済成長は両立できるのか(特任教授 柯隆)


2月22日 静岡県立大学グローバル地域センター 特任教授 柯隆

 中国のこれまでの40余年間の改革・開放を振り返れば、経済自由化を進めながら、経済成長を成し遂げてきた。ここに来て、習政権は経済統制を急速に強化している。その論理として、これ以上経済の自由化を認めると、国有企業が圧迫され、共産党指導の社会主義体制が脅かされてしまうということのようだ。なによりも、経済自由化を認めた副作用として腐敗が横行していると考えられている。

 この論理は間違っているが、中国国内でそういわれており、広く信じられている。この論理のどこが間違っているかというと、市場は公平に競争する場であり、民営企業は国有企業を圧迫するのではなくて、国有企業は生まれつきで先天性の欠陥を持っているから、民営企業との競争に勝てない。むろん、政府共産党にとって民営企業が伸長して、共産党指導体制は弱体化する恐れがあるかもしれない。一方、経済の自由化と腐敗は相関しない。中国で腐敗が横行しているのは共産党幹部に対するガバナンスが機能していないからである。

 習政権は反腐敗を強化しているが、政治学者によれば、それは政敵を倒すためのキャンペーンであるといわれている。この指摘は必ずしも間違っていない。事実として、わずか10年で習主席への権力集中は予想以上に進んでいる。指導者にとって権力を掌握することで、政策実行において抵抗勢力を排除することが簡単にできる。ただし、デメリットもある。権力が集中しすぎるため、異論を唱える人がいなくなる。権力者の政治判断はいつも正しいとは限らない。間違った政策を決断されても、修正されにくい。

 習主席の論理は経済統制を強化して、秩序を保ちながら、経済成長を目指すことである。ここで浮かぶ疑問として、経済統制を強化しながら、果たして経済成長を実現できるのだろうか。

 政府による資源配分と市場メカニズムによる資源配分を比較して考えれば、政府による資源配分は明らかに非効率である。市場メカニズムが機能する前提はルール化、すなわち、法による統治と情報の対称性である。法が機能しなければ、ルールが守られない。情報が対称的でなければ、市場が歪んでしまう。市場の歪みをもたらすのは政府による市場への介入である。したがって、習主席が考えている経済統制と経済成長の両立は基本的に実現不可能と思われる。

 これまでの10年間の中国経済の歩みを振り返れば、経済統制と経済成長の両立が実現不可能であることは明白であるが、習政権は経済統制を緩めようとしない。結果的に、経済成長率は大きく低下している。むろん、習政権は絶大な権力を握っているため、マクロ経済統計を再定義することで統計がよくみえるようにすることができる。

 2024年1月ダボス会議に参加する李強首相は中国国家統計局が2023年のマクロ経済統計を公表する前日に、23年の実質GDPが5.2%成長したと述べた。きわめて異例なことといわざるを得ない。マクロ経済統計の情報を恣意的に明かしてはならないのは常識のはずである。

 結論的に経済統制と経済成長の両立が不可能であるため、習政権は経済成長を犠牲にしている。長い目でみれば、経済成長が低迷すれば、習政権への求心力が低下する恐れがある。結果的に共産党指導体制が脅かされてしまう。共産党政権は正当性を証明するため、ある程度の経済成長を実現する必要がある。統制を強化することは短期的に習政権にとって安心感を手に入れることができるが、長期的にみれば、社会不安が増幅する恐れがある。結局のところ、近視眼的に政策を決断し実行していくか、長期的な展望に立脚して、政策を取るかの選択を迫られている。