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中国でのビジネスはどうすべきか?企業経営の視点から


1月29日 グローバル地域センター、経営情報学部講師 高瑞紅
政治・経済・外交など喫緊な課題が山積する中、日中韓新政権の発足とともに2013年が明けた。不安と期待両方膨らみながら年越しをした企業の経営者が多いのではないだろうか。日本経済の見通しが依然として不透明である一方、巨大市場を持つ中国との関係改善も出口が見えないままだ。中国でのビジネスはどうすべきか。

日本経済新聞は2012年12月に「日本企業による中国ビジネスの展開」についてアンケート調査を実施した。その結果、「拡大すべきだ」が9.9%に対して、「縮小すべきだ」が68.5%、「現状を維持すべきだ」が22%であった。これは感情的な意見にとどまるのか、実際の経営行動に反映するのか分からないが、日本は経営者まで草食系になったのかと嘆かずにはいられない。確かに中国でのビジネス展開は容易ではない。しかし、外部環境のせいばかりにしてはいけないと思う。

思い出してほしい。1970年代から80年代にかけて、日本企業の対米進出や事業展開は数々の試練に直面していた。日本製品を叩き壊す反日デモ、いわゆるジャパン・バッシングが全米に繰り広げられたほか、日米繊維交渉や日米自動車協議、日米半導体協定等々、アメリカの反発は今回の中国での反日デモよりはるかに激しいものであった。それにもかかわらず、アメリカ市場から撤退する日本企業はあったのか。

「アメリカ市場抜きでは成長は望めない」という一心で、日本企業はどんな困難があっても逃げずに必死で立ち向かった結果、高い競争力を手に入れた。同じように、現在、日本企業は中国市場抜きでは成り立たない、と言っても過言ではない。当時のアメリカ市場における必死さと同じような思いで中国市場に挑んできたのか?中国での事業展開を縮小すべきだとお考えの経営者に聞きたいところである。では、中国市場の魅力はまだあるのか、中国ビジネスをどう展開していくのか。これらについて考えてみることにしよう。

地域間の経済格差こそ、潜在市場

まず、中国市場について簡単な再確認をしたい。周知のように、中国では地域間の経済格差が大きい。それを問題点として取り上げる場合が多い。しかし視点を変えてみれば、それほどの潜在市場が存在していると捉えることもできる。交通手段として牛車で人と荷物を運ぶ、薪で米を炊く、洗濯板で汚れを落とす等々、このような生活を送っている地域に目を向け、「水道の哲学」という思想で彼らが手に届く製品を供給する。大量生産を高効率に行う日本企業の強みが発揮できるのではないだろうか。

お茶の産地として有名な中国雲南地域は、アジアで最も大きく最も高品質な小粒種コーヒー産地となっているのをご存知であろうか。コーヒー豆の国際価格が高騰し続ける中、雲南省へ買い付けに訪れる企業が増え、コーヒー豆の争奪戦が繰り広げている。「何があっても、ネスレを最優先だ」、地域の方が口を揃えていう。それもそのはず、世界にある100余りのコーヒー品種で、最も商業的価値を持つのは小粒種であり、スイスの食品大手ネスレ社は1980年代に、この小粒種コーヒー豆の栽培を雲南省に導入し、高生産能力を持ちつつ利益もあげられるコーヒー生産基地の発展に寄与してきたからである。ネスレのように地域に必要とされる日系企業がどれほどあるだろうか。中国全土でインフラ整備が進む中、沿岸地域に固持する必要はなく、より広い地域を射程に入れた工場の立地選択と顧客層を考え直す時期が来ているのではないだろうか。

広い産業基盤の活用により価格競争に対応

中国市場では自動車・家電・日用化学品など多くの製品分野において、日本企業は韓国勢・中国勢の後塵を拝する。技術力から考えると、日本企業は韓国・中国企業に負ける理由がない。価格競争に負けたのが問題点の一つであるとしばしば指摘されており、今更人件費が高騰する一方の中国で価格競争に勝てるわけがないと多くの方が思うかもしれない。価格競争は唯一の失敗要因だと思わないが、無視できない。中国やインドなどの新興国をメイン市場として戦っていくには、価格競争は避けて通れないのが現実である。韓国系と同じ価格帯でより良い品質でなければ、買ってもらえない。中国人の多くは、高級ブランド品を買うなら欧米製を選ぶからである。今までの成功体験に邪魔されず、無意味なプライドを捨てて、中国とはいえ、熾烈に繰り広げられているグローバル競争の中で、自らの強みと位置づけをしっかりと確認する必要があるのではないだろうか。

そもそも、他国企業と同じ中国での量産拠点で製造しているにもかかわらず、なぜ同じ価格帯を実現できないのか。理由は主に2つある。その1はオーバースペックだ。中国現地市場のニーズに適合した製品開発はしておらず、日欧米など先進国向けに設計した製品をそのまま中国市場に投入した製品が多かった。高品質は日本企業の強みであり、性能を落とすわけにはいかない。しかし消費者に必要とされる機能だけを選ぶことによって、無駄なコストを削減することができる。もうそろそろ中国市場に真剣に取り組むべきである。

その2は現地の産業基盤を活用してこなかったことだ。周知のように、中国はここ30年間をかけて、広い産業基盤を構築してきた。北の大連・北京・天津を中心とする環渤海地域、東の上海・浙江を中心とする長江デルタ地域、西の重慶・四川を中心とする成渝経済区、南の香港・広東を中心とする珠海デルタ地域等々、全土に数々の工業集積地が形成されている。高度な加工技術を蓄積している現地部品メーカーも少なくない。ここ数年、人件費の高騰でベトナムやミャンマーに量産拠点を移管しようという動きが見られるが、中国での量産機能に取って代わることができない。広い産業基盤を構築するには長い年月が必要だからだ。

本田技研が中国のコピーメーカーと合弁し、現地のサプライヤーから部品を調達することによって、二輪の世界首位を取り戻した。しかし残念ながら在中日本企業の多くは日系を中心とした部品調達に留まっており、中国にある広い産業基盤のメリットを享受できていない。確かに現地サプライヤーの新規開拓や品質管理は容易ではない。多くの欧米企業は中国での量産拠点のみならず、本国拠点まで中国での部品調達を行っている。その努力とノウハウを学ぶべきではないだろうか。

拠点間分業による経営資源の最適化と効率化

産業の空洞化が懸念されるなか、日本企業の生産の海外シフトには歯止めがかからない。しかしすべての製造拠点を海外に移管するのは自殺行為のように思う。日本企業の強みである高度な技術力と開発能力を維持するためには一部生産機能を国内に残す必要がある。ものづくり現場が技術と開発を蓄積する源泉だからだ。

周知のように、自動車は組み立て製品である。優秀な部品メーカーが日本自動車産業の競争力を作り上げたと言っても過言ではないだろう。数多くの優秀なサプライヤーを束ねる力、そしてそれぞれの専門領域をリードするサプライヤーを指導できる技術力は誰でも持てることではない。それができるのはトヨタの強みの一つとして知られている。多くの部品を自社で試作することによって、一つ一つ部品の背後にある知識が蓄積され、どこに改善の余地があるのかなど把握できたからである。「トヨタからの要求は確かに厳しい。しかしその厳しい要求には理屈がある。頑張るしかない。」と、サプライヤーがいう。開発能力も同じで、ものづくりの過程の中で開発のヒントがひらめくことは少なくない。そういう意味で、日本本社には生産機能を維持した方がいいわけである。

では、どういうものを日本で生産し、どういうものを海外拠点に移行するのか。コスト面の立地優位性を持つアジア諸国へ量産活動を移転・拡大しながら、日本国内拠点では限られた経営資源を生産性の高い分野に振り向け、事業構造の転換や新事業の創出など高付加価値分野の集約・高度化を図るべきだ。つまり、バリューチェーンの上でそれぞれの経営活動に最適な立地条件のところで拠点間分業を行うことによって、経営資源の最適化と効率化に取り組むべきではないだろうか。

本社による支援体制の強化と大胆かつ迅速な投資:韓国企業から学ぶ

ここ数年、サムスンや現代自動車、ポスコなど韓国の代表的な企業とそれらの取引先の本社や中国工場を訪ねる機会があった。どこの会社でも迎えてくれたトップマネジメントは韓国人であった。「韓国人による中国拠点の経営」、一見すると日本企業と同様、現地化していないと思うが、その背後に本質的な違いがある。

①本社機能の強化と海外拠点への支援
「人の現地化」はしていないと、日本企業はしばしば批判を受けているため、駐在員を減らしてきた。これは、日本のものづくりの強みである優れた技術と生産管理をうまく海外に移転できず、競争力の低下をもたらした要因の1つではないかと思う。現地化の問題は、日本人駐在員数の問題ではなく、駐在員と本社の役割との位置付けにあるのではないだろうか。

トヨタの生産管理システムや京セラのアメーバ経営など優れたものづくりの知識とノウハウは日本の製造現場に多く蓄積されている。それらの競争優位を海外拠点に移転することによって、現地市場で競争力を高めていくのは駐在員の役割であるのではないだろうか。本社の意思決定を現地で実行するための操り人形ではなく、駐在員は現地市場に目を向け、ニーズに適合した製品を開発・生産するため、足りない資源を本社から支援してもらう。そういう意味で、現地で何が困っているのか、本社が何を支援できるのか把握し解決するには、両方の情報を持つ駐在員がいなければならないのである。

しかしその役割を果たすためには、必ずしも駐在員は現地従業員の上に立つ必要がない。優秀な現地従業員をサポートしたり、時には引っ張ったり、必要に応じて立場を変える。「彼らが強いところは彼らに任せる。必要な情報と知識を提供する」と、日産の中国拠点の駐在員はこうして育った現地従業員の成長に合わせて自らの役割と位置付けを変える。つまり、駐在員が重要な役割を果たすべきだが、現地従業員の育成とモチベーションの向上を考慮して脇役を演じる必要がある。

こうした海外拠点が自律した経営活動をうまく行うには、本社の支援が不可欠になる。現代自動車は本社と中国工場にカメラを設置し、インターネットで生産ラインが見られるようなシステムを導入している。現地に派遣している駐在員に管理を任せるだけでなく、迅速な問題解決や品質管理に対応できる本社による支援体制が完備されている。そういう意味で、海外事業展開と現地化を進めるには、本社機能を強化しなければならない。

各事業部や国内外の各拠点に散在する知識やノウハウなど情報資源の集約とその全社レベルでの活用を考えれば、グローバル化が進めば進むほど、本社機能の重要性が高まるのは明白である。しかし、ここ数年、日本企業では間違った動きが展開されている。1つは、人員の削減や事業分野の独立性を追求しすぎたがゆえに、本社機能が縮小し弱体化したことである。もう1つは、本社機能の「立地」についての議論である。製造・金融・サービスなど産業や分野によって異なるが、知識やノウハウの集約と活用のための優秀な人材・情報などが確保できれば、海外でもよければ、日本でもいい。問題の本質は、本社機能の役割と位置付けである。

日本企業の多くには、依然として、海外拠点の経営に関する意思決定や製品戦略などの全てを日本本社によって行う本国中心主義が色濃く残っている。企業を取り巻く環境が激変する中、現地市場の変化に迅速な対応をするには、海外拠点による自立した経営が大事になってくるだろう。日本本社が担う役割を、従来の本国中心主義における役割から海外拠点による自立経営の支援へと位置付けを変えるべきではないだろうか。

②大胆な投資による労働市場の流動性と人手不足への対応。
一昨年、ある日系企業の上海工場を訪問した。薄暗い工場の中で従業員が不慣れな手付きでエアコン配管の熔接をしていた。荒々しい熔接を見て、これで大丈夫かと尋ねたところ、従業員がすぐやめていくのでどうしようもないと駐在員は答えた。それ以来、その会社の製品を買わないことにした。中国では離職率が高いため、きちんとした教育をやめた日系企業が少なからずある。故に、品質の低下を招いた。

それに対して、現代自動車の「デザインや性能、品質の面で競争力が上がっている」と、日産の志賀CCOが評価している。現代は、北京で2002年と2007年に、本国のアサン工場と同じ程度の自動化率を持つ年間生産能力30万台の2つの工場を建設した。当初は品質の安定性が目的であったが、自動化の導入によって人手に頼る工程が減り、今になって人手不足への対策にもなっている。他の外資系自動車メーカーより遅れて中国に進出した現代自動車が、中国における自動車販売台数を見れば、ゼネラル・モーターズ (GM)、フォルクスワーゲン(VW)に次いで3位である。大胆かつ迅速な投資、そして本社による支援によって現代自動車が中国での急速な成長を手に入れたことを否定できるだろうか。

まとめ

中国ビジネスに対する日本企業の取り組みと問題点について、主に生産体制の観点から議論してきた。その中でも特に、中国に存在する生産資源の活用方法と、日本本社と現地生産拠点との分業体制の在り方の2点は重要な課題として残されており、これらの問題を克服することが今後の中国ビジネスを発展させるためには必要である。また、これらの問題点は中国ビジネスに限らず、今後発展が見込まれる海外諸国での事業展開においても重要な課題となるだろう。半ば神話化された「日本型ものづくり」の呪縛から解き放たれた、現地の状況に応じた柔軟な生産組織体制の構築が求められるだろう。