静岡に必要な“2つの柱”-防災知のハブとして、そして自然災害予測の中核として(特任教授 鴨川仁)
静岡県立大学グローバル地域センター特任教授 鴨川仁
日本有数の自然災害多発地帯である静岡県。南海トラフ地震の切迫性、富士山噴火の可能性、そして近年頻発する豪雨災害に対し、科学的な知見と地域密着型の実践が求められている。こうした状況の中で、静岡県立大学グローバル地域センター自然災害研究部門は、2つの重要な役割を果たしている。
ひとつは、知見を集約し発信する「防災知のハブ」としての機能。もうひとつは、地域を対象にした「自然災害予測の拠点」としての役割である。
このセンターの前身である地震予知部門は、2016年度に設置され、楠城一嘉特任教授が着任した。南海トラフ沿いのゆっくりすべり(スロースリップ)現象や地殻変動の観測を通じて、巨大地震の先行現象把握に関する先進的研究を展開してきた。2022年度からは自然災害研究部門として再編され、対象を津波や火山、豪雨災害などにも広げ、より包括的な災害科学拠点へと進化している。現在、3名の専任となる特任教授、5名の客員教授、3名の客員共同研究員で構成されている。
防災に関する研究機関は全国各地に点在するが、静岡県には他県のような自然災害対策に特化した公的研究所が存在しない。近隣県で言えば、山梨県の富士山科学研究所や神奈川県の温泉地学研究所のように、地域の自然災害リスクに直接対応する専門機関を県が持つ事例は多い。しかし、静岡県ではその役割がグローバル地域センターに事実上託されていると言える。つまりこのセンターは、県内唯一とも言える“自然災害予測に対応可能な機関”としての期待を一身に背負っている。
実際、同センターではJAMSTECや防災科研との連携により、南海トラフ地震の震源域におけるスロースリップの常時監視体制を構築しており、さらに雷活動観測や、豪雨をもたらす積乱雲の特性調査など、地震・津波・気象・火山現象に対する最前線の観測が日常的に行われている。これらの研究は、単に知見を得るだけでなく、静岡という土地において“いつ・どこで・どのような災害が起こりうるか”を予測し、地域住民の命を守るための知的基盤となっている。
そしてもう一つの柱が、「防災知のハブ」としての機能である。グローバル地域センターは、研究成果を閉じた学術空間にとどめるのではなく、地域社会や行政、教育機関と共有し、実際の防災行動や政策提言に活かすことに重点を置いている。県内で言えば、静岡大学防災総合センター、富士山世界遺産センター、ふじのくに地球環境史ミュージアムなどの機関、近隣県も含めれば、富士山科学研究所、温泉地学研究所の研究者との交流を活性化する研究会・シンポジウムの企画・実施は活発に行われている。
こうした多様な機関とのつながりは、「ふじのくに地域・大学コンソーシアム」を軸とした連携にも反映されており、高校・大学・自治体・地域住民が一体となって学び、備え、行動する“防災文化の共創”を後押ししている。防災教育や地域課題解決型の学びを通じて、知識は教室から街へ、研究成果は学会から地域社会へと伝播していく。
今後、グローバル地域センター自然災害研究部門には、ますます重要な役割が期待される。地震や噴火といった固体地球的な災害だけでなく、気象の極端化にともなう新たな災害への対応や、災害後の地域再建に向けた知的支援など、“未来志向の防災研究”が求められるだろう。同時に、防災知を軸とした人材育成や市民参画型の取り組みにより、地域の防災力そのものを高めるエンジンとしても、その存在感を発揮していくに違いない。
静岡県において、科学に基づく自然災害予測と、地域を巻き込んだ防災知の循環を支える中核拠点──それが、静岡県立大学グローバル地域センター自然災害研究部門の現在地であり、未来への挑戦でもある。