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日本の危機管理を象徴する官邸ドローン事件(特任教授 小川和久)




8月12日 特任教授 小川和久(特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長)
 今年4月に起きた「首相官邸ドローン(小型無人機)落下事件」は、日本の危機管理が最低限の取り組みさえ怠ってきた現実を余すところなく浮き彫りにした。あまつさえ、メディアを通じて世界に知られてしまった点で、日本の安全を根底から揺るがしかねない出来事だった。
 4月22日午前、首相官邸の屋上にドローンが落ちているのを官邸職員が発見した。機体上部には液体の入った茶色いプラスチック容器が取り付けてあり、放射性物質を示すシールが貼られ、セシウム134とセシウム137が検出された。直後、福井県で出頭した男が威力業務妨害などの疑いで逮捕された。
 このドローンは、1月26日に米国ホワイトハウスの敷地内に墜落したものと同じ、中国・深圳のDJI社が開発した「ファントム2」。最高速度は型式によって時速36キロから54キロ。
 こうしたドローンを低空で探知できるレーダーを設置したとしても、誤探知を避けるために肉眼で監視し、必要に応じてヘリコプターを飛ばし、ヘリから垂らしたネットなどでからめ取らなければ、一定の有効性を持つ対策とは言えない。銃撃して撃墜しようにも、爆発物や生物化学兵器を搭載している可能性もあり、落下物の危険もあることから、都市部では手の出しようがないからだ。
 実を言えば、私は2002年3月、当時の小泉官邸の求めで仕上げ段階の首相官邸のセキュリティをチェックし、二桁以上のセキュリティ・ホールを指摘した立場である。米国での同時多発テロの6ヵ月後ということもあり、屋上を含む経空テロ(空からのテロ)に関する指摘も行い、今回と同様の事態への備えを勧告したことは言うまでもない。それもあって、一緒にチェックした政府関係者(現在では事務次官級になっている)たちは、対策が施されていなかったことにあきれかえった表情だった。
 首相官邸のセキュリティ・チェックでは、私は特殊部隊による上空からの奇襲を念頭に対策を施すよう求めた。米国でHALO(高高度降下・低高度開傘)と呼ばれる降下方法だと、夜陰に紛れて6000メートル以上の高空から降下し、高度600メートルまでパラシュートを開かない。まるで忍者が降り立つように、首相官邸屋上に特殊部隊の一団が忽然と現れても、警備陣が気づくことはないと思われたからだ。私は以下のような対策を提案した。
1)見張り(官邸屋上に警察の武装した警備部隊を応戦可能な状態で常駐させる)
2)レーダー(陸上自衛隊が装備する小型レーダー)
3)音響センサー(屋上に降り立った特殊部隊の足音などを感知)
4)振動センサー(特殊部隊の体重移動などによる振動を感知)
5)熱センサー(特殊部隊の体温など熱を感知)
 たったこれだけの対策もなく、ドローンの落下を長期間にわたって気づかなかったのは最悪である。場所が場所だけに、日本に危機管理が存在しないことを世界が知ってしまったのは疑いないところだ。テロリストが気づくのは時間の問題だろう。対策が間に合うことを祈りたい。