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「南海トラフ地震臨時情報」関係機関の対応周知が必須(客員教授 岩田孝仁)


9月1日 客員教授 岩田孝仁 (静岡大学防災総合センター 特任教授)
 今年(2022年)7月25日の朝7時17分、富士宮で震度3を観測する地震(マグニチュード3.4)が発生した。富士川河口断層帯付近を震源とする地震で、余震もしばらく続いた。南海トラフから駿河トラフに連なる巨大地震の震源域がちょうど陸に差し掛かる場所が富士川河口断層帯であり、何とも嫌な場所で起きた地震である。

 もう少し地震の規模が大きければ被害が発生した可能性もある。何よりも、懸念されている東海地震など、いわゆる南海トラフ沿いの大地震を誘発する可能性も否定できない。仮に、マグニチュード7クラスの地震であれば、国は「南海トラフ地震臨時情報」の発表を検討していたであろう。

 この「南海トラフ地震臨時情報」に関して、静岡県が今年4月に発表した県民意識調査結果が気に掛かる。「情報を知っている(内容を概ね理解している)」が26.4%に対して、「聞いたことはあるが内容は知らない」が36.1%、「聞いたことがない」が37.5%で 合わせると73.6%が「内容は知らない」又は「聞いたことがない」との回答である。同じ南海トラフ沿いに位置する高知県が昨年行った調査でも、知らない又は聞いたことがない人を合わせると77.6%と、静岡県の調査とほぼ同様の傾向である。こうした現状でこの臨時情報が発表される事態になれば、市民の大混乱が心配される。

 南海トラフ地震臨時情報には2つのケースが想定されている。一つは震源域の半分だけ破壊して巨大地震が発生し、半分が破壊せずに残った状態で取り残された時であり、「巨大地震警戒」との情報で発表される。もう一つは一回り規模の小さいマグニチュード7程度の地震が震源域付近で発生した場合で、「巨大地震注意」とされる。情報は1週間ほど出され解除されるが、解除された後であっても、巨大地震発生の可能性が普段より高い状況に変わりはない。情報が出されたらどう対応するのか、解除された後も含めしっかり準備しておく必要がある。

 特に気にかかるのが、市民の生活と密接に関係する学校や病院、鉄道や高速道路など輸送機関、銀行や生活必需品を扱うスーパーや小売店などがどのような対応になるのかである。製造ラインを抱える企業なども同様で、多くは通常通りの活動を続けることを望まれているが、津波がすぐに来襲し避難のいとまがないような場所では営業を見合わせるなど、何らかの自衛措置も必要となる。自力移動が困難な方を多く抱える社会福祉施設や医療機関なども、予めどのように対応するかをしっかり決めておかなければ大混乱になる。

 
 こうした気がかりと共に、各事業所がとる対応に関して、ほとんど情報が出されていないことや、対応もバラバラであることである。例えば、筆者の勤務する静岡大学に複数の銀行などのATMが設置されている。中には「当キャッシュコーナーは、「南海トラフ地震臨時情報」等発表時に閉鎖いたします。」と明記しているものもあれば、特に記載のないものもあり、同じ環境に設置されていても対応がまちまちなのが分かる。なぜ臨時情報で閉鎖するのかの疑問が残るが、こうしたことも、先の県民意識調査結果で多くの県民が臨時情報に関して知らないと答えた結果に繋がっているのではないかと推察する。

 各事業所が緊急時にも活動を維持又は迅速に再開するためには、地震など災害発生時のBCP(事業継続計画)と同様に、この南海トラフ地震臨時情報が出された際のBCPはかなり重要である。

 例えば、一つのシナリオとして以下のようなシーンが考えられる。
① 震源域の西半分が破壊し南海地震が発生し、四国から紀伊半島にかけて激甚な被害発生
② 震源域周辺だけでなく東海地方沿岸にも大津波警報発令
③ 政府はいわゆる「半割れ」と判断し、東海地域を中心に臨時情報「大地震警戒」を発表
④ 発災から2日後に大津波警報は解除
⑤ 1週間後に臨時情報は「大地震注意」に切り替え
⑥ 2週間後に臨時情報は解除されるが、大地震発生の可能性は高まったまま
 
 この間、被災地での救出救助活動など全国から応援が本格化する中、東海地域沿岸では津波警報を受け沿岸部の住人などが一旦は避難したものの、大津波警報の解除、さらに臨時情報の解除に伴い徐々に普段の社会活動が再開していく。
再開にあたって、①すべて元通りに活動再開して済ませてしまうのか、②それとも津波浸水や耐震性の欠損などのリスクをこの際に回避する努力をするのか、さらに、③こうしたリスクが予め判明しているのであれば事前に避ける努力を行っておくのか、BCPを議論する際にしっかり組み込むことが重要である。

 南海トラフ地震臨時情報が出された時に、どう対応するのか、市民一人ひとりが対応確認しておくことは重要であるが、一方で、私たちの生活に密接に関わる様々な機関がどう対応するのか、改めて情報発信が望まれる。特に、津波や土砂災害のリスクの高い場所、耐震性の低い施設を抱える事業所などの対応周知は必須である。

 ※本稿の一部に、静岡新聞2022年8月24日朝刊に掲載した筆者の“時評”「南海トラフ地震臨時情報 防災の日に行動確認を」を引用