アメリカ再工業化とプライベート・エクイティ国家化の矛盾(特任准教授 西恭之)
静岡県立大学グローバル地域センター 特任准教授 西恭之
世界を揺さぶったトランプ関税の名目である、米国の製造業雇用者数の回復は実現していない。再工業化のかけ声とは裏腹に、トランプ政権は、産業政策に必要な政府の機能を解体し、利益供与ネットワークに置き換えているようにみえる。国防総省(戦争省)などの政治任用者にプライベート・エクイティ(PE、未公開株)投資ファンド出身者が多いだけでなく、政府がPEに似た立場で民間企業に投資している。
米国の製造業が2025年に自国の政策から受けた損害は、関税の朝令暮改だけではない。22年のCHIPS法は、半導体の研究開発と製造を促進するため、幅広い支持のもと制定された。トランプ大統領は再就任後、CHIPS法を非難し、同法により設置された国立半導体技術センターを実質的に廃止した。再生可能電源に対する攻撃は、洋上風力の建設許可取消に至った。
国防総省は兵器を試験する機能を縮小している。ヘグセス長官は25年5月、同省運用試験評価局の人員をほぼ半減し、同局が監督する兵器システムの数を251から152に減らした。
つまり、トランプ政権は、技術的基準の制定や研究開発の支援・監督を中立的におこなうという、政府の役割と考えられてきた産業政策の機能を解体している。
パランティア・テクノロジーズやアンドゥリル・インダストリーズといった防衛テック企業は、再工業化という政権のスローガンも、こうした政策機能の解体も支持するという、矛盾した立場をとっている。
両社のような(元)ベンチャー企業も、ベンチャー投資ファンド(VC)も、破壊的変革(ディスラプション)を利用して将来の利益を出資者に期待させようとする。また、両社の経営者・出資者は、米国の軍事技術の歴史について、政府が果たした役割を軽視する天才史観を宣伝している。
現在の国防総省の政治任用者には、PE(VCを含む)や防衛テック企業の出身者が多い。ファインバーグ国防副長官(サーベラス・キャピタル・マネジメント創業者)、ケイン統合参謀本部議長(退役後、現役復帰までVC)、ドリスコル陸軍長官(陸軍除隊後、投資銀行・VC)、オバダル陸軍次官(アンドゥリル・インダストリーズ出身)らである。大統領府科学技術政策局のクラツィオス局長は、パランティア・テクノロジーズ創業者ピーター・ティール氏の右腕だった。
ファインバーグ国防副長官がレアアース鉱山・加工会社MPマテリアルズと交渉した取引により、国防総省は同社の最大の株主となった。米政府は半導体メーカーのインテルに、オハイオ州に工場を建てるというCHIPS法の条件を免除して資金を供与するかわりに、株式の9.9%を取得した。日本製鉄の子会社となったUSスチールの黄金株も、一連の株式取得のひとつである。
PEは買収・非公開化した企業の経営に介入して、少なくとも短期的には収益率を上げようとする。トランプ政権が国家安全保障のために各社の株式を取得したのであれば、国内の生産・生産能力の増強や、外国の影響の排除が、経営に介入する目的となるはずである。
しかし、個別企業の株式を取得して経営に介入しても、米国を再工業化できる見込みは低い。第二次世界大戦以後に米政府が兵器・航空機・電子機器・原子力などの製造業の振興に成功したときは、産業部門または経済全体を考えて競争を促した。その成功は、技術的基準の制定や研究開発の支援・監督を中立的におこなう機能がなければ再現できない。


