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原子力安全 ― 装備の不備は対策の不在。言い訳はできない。(特任教授 小川和久)




12月10日  特任教授 小川和久(特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長)
グローバル地域センターの特任教授として危機管理を担当しているが、中部電力浜岡原発の安全確保の問題が気になってならない。本稿では、ささやかな経験を紹介しておきたい。

2007年秋、中越沖地震(同年7月)での東京電力柏崎刈羽原発の緊急停止を受けて、いくつかの電力会社と原発の安全問題について話し合う機会があった。私は①原子力事故を念頭に危機管理組織を再編する、②原子力事故用装備を備える ― などを具体的に提案した。

なかでも、装備の拡充はただちに実行できるテーマなので、着手するよう強く求めた。

私が提案した装備は、第一線指揮用大型四輪駆動車(放射線防護)、遠隔制御消防車両、遠隔制御災害対処ロボット、遠隔制御無人ヘリコプター、など。このうち無人ヘリは、放射線の測定、被害状況の確認、被害映像の撮影、被害個所の監視に大きな役割を果たす。

2011年3月11日の東京電力福島第一原発事故では、国産無人ヘリの投入も検討されたが、最終的には原子力事故対処能力を持つ米国ハネウェル社製の軍用無人ヘリ・Tホーク(10キロ離れて無線操縦が可能)が投入された。フランス製の無人ヘリも緊急空輸された。

米仏製無人ヘリの投入となったのは放射線対策の差だ。放射線はIC(集積回路)に使われるシリコンを劣化させ、ICを鉛などで覆わなければ誤作動や故障を起こす恐れがある。遠隔操作用のカメラの受光装置も放射線の影響をうけやすい。その対策が国産無人ヘリにはなかった。

ロボットも同様だ。米アイロボット社は、原子炉付近の放射線を測る小型のパックボット2台、消防ホースを運ぶ大型のウォーリア2台を、キネティック・ノースアメリカ社はバケットローダ無人化キット、1000メートルの暗視・集音性能をもち、7500種類以上の危険物を識別できるタロン、狭い空間を捜索するドラゴン・ランナーを空輸した。

むろん日本にも、例えば北九州のベンチャーが開発した作業用ロボットがある。2本のアームで重さ1トンの小型乗用車を楽々と持ち上げる。操作に慣れるまで10分程度。地球の裏側からでも遠隔操作できる。応急的に電子機器を放射線防護するだけで投入できるロボットだ。米国製ロボットを原子炉に近づけるための光ファイバーの敷設にも使える。

国産ロボットの出番がないのは、日本のロボット開発が生産ラインか人型ロボット中心で、人間が活動できない場所のための研究開発が遅れてきたためだ。中越沖地震のあと、電力会社が原子力事故を前提として無人ヘリやロボットの整備を進めていたら、福島第一原発上空や原発内部における情報収集、放水用機材を展開するための瓦礫の撤去など,初動は大きく変わっていただろう。

装備の不備は対策の不在の象徴だ。言い訳はできない。静岡県と中部電力は、この安全対策の基本を忠実に守っているか。静岡県民とともに注視していきたい。