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形式主義が国民を殺す(特任教授 小川和久)




3月28日  特任教授 小川和久(特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長)
静岡県危機管理部は昨年12月11日、新東名サービスエリアのヘリポートの緊急点検を行った。

新東名の防災機能について、昨年2月24日付の国交省の発表資料は次のように謳っている。
「新東名高速道路では、SA・PA7ヵ所において、防災ヘリ等が活用可能なヘリポートや自家発電設備を設置し、防災機能を確保します」

南海トラフ地震の被害想定では、静岡県の死者は11万人ちかい。経済的損失も約20兆円と愛知県に次ぐ規模で、しかも県内を走る道路、鉄道の寸断によって、日本経済は深刻な打撃を被るとされている。

ひとり静岡県民のためにとどまらず、新東名の防災機能は国家的に重要な意味を持つ。国交省が言う通りなら、こんなに心強いことはない。

しかし、ヘリポートを設置しても災害時に使えるかどうかは別問題だ。私は昨年8月、静岡県の消防防災ヘリコプターで焼津市・吉田町の津波避難施設の空白域を調査したおり、一部のヘリポートを上空から観察してみた。

はたして予想どおり、災害時に威力を発揮する陸上自衛隊の大型と中型ヘリの発着には、かなり制約があるとの印象を持った。県立大学の教員紹介にもあるように、私は陸上自衛隊の航空科職種の末端にいた経験もあり、ヘリポートが使えるかどうかくらいは判断できる。

上記の実地検証は、陸上自衛隊の大型ヘリCH47、中型ヘリUH60などのパイロットに加え、災害時にヘリを運用する消防、警察、海上保安庁のパイロット、静岡県と関係自治体の職員、中日本高速道路側の総勢43人で、11カ所のヘリポートを1日でチェックして回った。

私のメモによれば、場所をずらすなど改修が必要なのは11カ所中10カ所という結果となった。

なぜかと言えば、進入角度が航空法に抵触する山に近いヘリポートなどの場合、消防、警察、海上保安庁のヘリは発着訓練を申請しても認められないからだ。航空法に関係なく発着訓練できる自衛隊ヘリの場合も、ダウンウォッシュ(ローターからの下向きの風)の風圧や小石が飛び散る範囲内に高速道路の本線や進入路があり、交通をストップしない限り、訓練はできない。

日頃から訓練しておかなければ、いくら大災害時には航空法の適用除外で発着できると言っても、二次災害の危険性がある。
訓練できない問題について、中日本高速道路側は県危機管理部に対して「緊急時のために設けたものなので、訓練は想定していない」と回答してきたが、悪いことに県危機管理部がまとめた実地検証結果の評価も、中日本高速道路側の見解に従って、多くのヘリポートを「使用可能」としている。

これは形式主義の最たるものだ。太田昭宏国土交通大臣の指示で、近く国交省、中日本高速道路と静岡県(私)の三者で、改修を前提に協議することになったが、形式主義が国民の命を奪うことは、形だけのチェックが招いた笹子トンネル崩落事故が証明していることを忘れてはならない。