世界はグローバル化からリージョナル化へ方向転換 (特任教授 柯隆)
静岡県立大学グローバル地域センター
特任教授 柯隆
特任教授 柯隆
トランプ政権が発足して100日経過した。この100日間、世界はトランプ氏が引き起こした関税戦争により大混乱に陥った。戦後時代の世界は、冷戦構造のなかで、民主主義陣営と共産主義陣営に分かれ激しく対立しながら、民主主義陣営の市場経済が最終的に勝利を収めた。1990年代初頭、ソ連邦が崩壊したのを受けて、フランシス・フクヤマ教授はそれを「歴史の終焉」であると指摘した。
そこから、民主主義陣営が旧共産主義陣営を呑み込む形で世界は急速にグローバル化していった。グローバル化の意味は価値観の共有とルールの統一である。旧共産主義陣営が冷戦に敗北を喫したため、民主主義陣営は民主、自由と法治の価値観が自然に共有されると勝手に誤解していった。それに迎合する形で、旧共産国も民主、自由と法治に赤裸々に反対する姿勢をみせずに、むしろ民主主義陣営と価値観を共有するふりをするようになった。
グローバル化の潮流は自由化だが、事前に定められたルールが約束通りに遵守されていない。否、そもそも千差万別の世界において統一したルールを徹底しようとすることに無理があった。ルールが厳格に守られていないため、グローバル化の形は徐々に歪んでしまった。
それでも、民主主義陣営の国々はある誤解をずっと抱いていた。それは旧共産国の経済が成長すれば、徐々に民主化と法治化していき、自由と人権が尊重されるようになるという考え方である。論理的に考えれば、民主化と一人当たりGDPには必ずしも関連性はない。ジョセフ・スティグリッツ教授が自らの著書のなかで、1950年代のソ連(当時)はアメリカよりも経済成長率が高かったと指摘している。しかし、スターリン時代のソ連は暗黒の時代でほかならない。
中国についていうと、1978年に改革・開放へ舵を切られ、その後、中国経済は徐々に離陸していったが、1989年天安門広場に集まった学生や市民の民主化要求運動が武力によって鎮圧された。その後の歴史を振り返れば、ソ連の崩壊に目を奪われ、中国経済の高成長に過度に期待を寄せた。すなわち、天安門事件は偶発的なもので、中国経済はこのまま成長していけば、徐々に民主化するだろうと期待されていた。
アメリカを中心とする民主主義陣営の国々が中国に対して行った最大の協力は2001年、中国のWTO加盟に賛成票を投じたことである。中国政府はWTO加盟にあたり、金融市場の全面開放などの約束をしたが、額面通りに履行されていない。当時の共産党中央委員会の執行部において、「とりあえず(WTOに)加盟して、それからのことはそれから考えよう」との結論が出たといわれている。複数の中国筋はこの話を証言しているが、一つの説ではこれは李鵬元首相の言葉といわれ、もう一つの説では朱鎔基元首相が言ったともいわれている。誰が言ったかは重要ではなくて、中国政府がWTO加盟時の約束を額面通りに履行する意思がなかったことは明白である。この点は米中貿易戦争の原因の一つといえる。
トランプ政権が引き起こした関税戦争は綿密な計画に基づいて実施されたものにはみえない。アメリカ人の生活が中国に過度に依存しているのは明らかであり、中国への過度な依存を減らすべきであることはアメリカの有識者のコンセンサスであろう。ただし、トランプ政権がいきなり行ったのはショック療法のようなもので、しかも、中国に対する制裁関税の発動だけでなく、中国以外のほとんどすべての国や地域にも制裁関税を発動した。それに対して、市場がノーと言ったため、トランプ政権がペースダウンを図らざるを得なくなった。しかし、事態の収拾は簡単なことではない。なぜならば、トランプ政権の足元がすでに見られてしまったからである。
今となって、トランプ政権は上げた拳を下ろしたいのだろうが、簡単な作業ではない。トランプ政権にとってもっとも危ないのは同盟国との間に亀裂が走っていることである。トランプ政権がそれを修復できるとは思わない。
トランプ政権が引き起こした関税戦争の後遺症の一つは国際分業体制が破壊されたことである。トランプ政権自身は国際ルールを守っていないため、本来、ルールに基づいた国際貿易枠組みを強化しなければならないはずだが、ルールが破壊されている。
国際貿易のルールを守るはずのWTOはすでに機能しなくなった。グローバル化の枠組みが破壊され、世界はこれから地域化(regionalization)に向かう可能性が高い。しかし、グローバル化に比べ、地域化のシナジー効果が小さい。なお、それぞれの地域の経済協力についてどの国がリーダーシップを取るかについて、地域紛争に発展する可能性も否定できない。
トランプ政権がこれから4年近く続くため、当面は乱世となり、すなわち、ルールが機能せず、リーダーが不在である。このような乱世において各々の国と地域は独自の戦略で自衛する力を強化する必要がある。
そこから、民主主義陣営が旧共産主義陣営を呑み込む形で世界は急速にグローバル化していった。グローバル化の意味は価値観の共有とルールの統一である。旧共産主義陣営が冷戦に敗北を喫したため、民主主義陣営は民主、自由と法治の価値観が自然に共有されると勝手に誤解していった。それに迎合する形で、旧共産国も民主、自由と法治に赤裸々に反対する姿勢をみせずに、むしろ民主主義陣営と価値観を共有するふりをするようになった。
グローバル化の潮流は自由化だが、事前に定められたルールが約束通りに遵守されていない。否、そもそも千差万別の世界において統一したルールを徹底しようとすることに無理があった。ルールが厳格に守られていないため、グローバル化の形は徐々に歪んでしまった。
それでも、民主主義陣営の国々はある誤解をずっと抱いていた。それは旧共産国の経済が成長すれば、徐々に民主化と法治化していき、自由と人権が尊重されるようになるという考え方である。論理的に考えれば、民主化と一人当たりGDPには必ずしも関連性はない。ジョセフ・スティグリッツ教授が自らの著書のなかで、1950年代のソ連(当時)はアメリカよりも経済成長率が高かったと指摘している。しかし、スターリン時代のソ連は暗黒の時代でほかならない。
中国についていうと、1978年に改革・開放へ舵を切られ、その後、中国経済は徐々に離陸していったが、1989年天安門広場に集まった学生や市民の民主化要求運動が武力によって鎮圧された。その後の歴史を振り返れば、ソ連の崩壊に目を奪われ、中国経済の高成長に過度に期待を寄せた。すなわち、天安門事件は偶発的なもので、中国経済はこのまま成長していけば、徐々に民主化するだろうと期待されていた。
アメリカを中心とする民主主義陣営の国々が中国に対して行った最大の協力は2001年、中国のWTO加盟に賛成票を投じたことである。中国政府はWTO加盟にあたり、金融市場の全面開放などの約束をしたが、額面通りに履行されていない。当時の共産党中央委員会の執行部において、「とりあえず(WTOに)加盟して、それからのことはそれから考えよう」との結論が出たといわれている。複数の中国筋はこの話を証言しているが、一つの説ではこれは李鵬元首相の言葉といわれ、もう一つの説では朱鎔基元首相が言ったともいわれている。誰が言ったかは重要ではなくて、中国政府がWTO加盟時の約束を額面通りに履行する意思がなかったことは明白である。この点は米中貿易戦争の原因の一つといえる。
トランプ政権が引き起こした関税戦争は綿密な計画に基づいて実施されたものにはみえない。アメリカ人の生活が中国に過度に依存しているのは明らかであり、中国への過度な依存を減らすべきであることはアメリカの有識者のコンセンサスであろう。ただし、トランプ政権がいきなり行ったのはショック療法のようなもので、しかも、中国に対する制裁関税の発動だけでなく、中国以外のほとんどすべての国や地域にも制裁関税を発動した。それに対して、市場がノーと言ったため、トランプ政権がペースダウンを図らざるを得なくなった。しかし、事態の収拾は簡単なことではない。なぜならば、トランプ政権の足元がすでに見られてしまったからである。
今となって、トランプ政権は上げた拳を下ろしたいのだろうが、簡単な作業ではない。トランプ政権にとってもっとも危ないのは同盟国との間に亀裂が走っていることである。トランプ政権がそれを修復できるとは思わない。
トランプ政権が引き起こした関税戦争の後遺症の一つは国際分業体制が破壊されたことである。トランプ政権自身は国際ルールを守っていないため、本来、ルールに基づいた国際貿易枠組みを強化しなければならないはずだが、ルールが破壊されている。
国際貿易のルールを守るはずのWTOはすでに機能しなくなった。グローバル化の枠組みが破壊され、世界はこれから地域化(regionalization)に向かう可能性が高い。しかし、グローバル化に比べ、地域化のシナジー効果が小さい。なお、それぞれの地域の経済協力についてどの国がリーダーシップを取るかについて、地域紛争に発展する可能性も否定できない。
トランプ政権がこれから4年近く続くため、当面は乱世となり、すなわち、ルールが機能せず、リーダーが不在である。このような乱世において各々の国と地域は独自の戦略で自衛する力を強化する必要がある。