破壊力が強いが創造性がないトランプ政権の行く末 (特任教授 柯隆)
静岡県立大学グローバル地域センター
特任教授 柯隆
特任教授 柯隆
「創造的破壊」はシュンペーターの遺言のような教えである。私自身はアメリカで生活していないが、対岸の火事を眺めるようにアメリカをみており、社会制度にさまざまな問題が潜んでいるのは明々白々である。移民を受け入れて、その原動力を生かしてアメリカは世界の覇権国家にまで上り詰めた。しかし、近年、アメリカにとって「有用な」移民よりも「無用な」移民の入国が増えている。不法移民の入国はアメリカにとって重い負担になっている。
トランプ氏は不法移民に強い反感を持っているようだ。一期目のとき、トランプの壁を構築して、不法移民の流入を止めようとしたが、不発に終わった。二期目が発足して、すぐさますでに流入している不法移民の強制送還を始めた。しかし、これも気が遠くなるような作業になりそうだ。
トランプ氏がもう一つ不満を持っているのはワシントンの官僚機構である。ニューヨークに本拠地を置くトランプ氏からみると、ワシントンの官僚機構が腐敗の塊のように映る。トランプ氏は官僚機構にメスを入れるために、イーロン・マスクを起用した。異端児のマスク氏はトランプ氏に応えるべく、すぐさまワシントンの官僚機構に対して外科手術を施している。
しかし、官僚機構の改革は企業の経営合理化と質の違う作業である。マスク氏は官僚機構を壊しているが、その継続性と安定性が損なわれないか心配されている。
ここで考えなければならないのはトランプ氏の当選が偶然性のもたらした結果かどうかである。アメリカの選挙民はトランプ氏一期目の仕事ぶりを自分の身で体験しているにもかかわらず、それでも半数以上の有権者がトランプ氏に一票を投じた。少なくとも、その瞬間においてアメリカの選挙民の半分程度はトランプ政治に何かを共感していた。その何かがまさにトランプ氏の破壊力である。
人間は自分と関係のないところで起きる破壊活動を楽しく傍観する野次馬の心理状態に陥ることがある。とくに、アメリカのような格差の大きい社会において不満を持つ「負け組」の人々は社会の安定よりも、社会の枠組みをすべてぶっ壊してほしいと考える。
二回目の選挙においてトランプ氏にとって有利だったのはalways Trumpの人々に加え、never Trumpの人々の一部がトランプの破壊力に共感して一票を投じたことだった。したがって、トランプ氏の当選は偶然ではなくて、必然の結果であると認識されるべきである。
しかし、今になって、トランプ氏に一票を投じた人々のかなりの部分は後悔しているはずである。彼らはトランプ氏の破壊活動が自分と無関係と思っていたが、無関係ではなかった。なぜならば、トランプ政権が発足してから、アメリカ経済はもっと悪くなる兆しが見えてきたからである。
民主党政権は社会福祉を強化しようとしたのに対して、トランプ氏は社会福祉について無関心である。そのなかで一期目のトランプ政権は中国との貿易戦争を仕掛けたが、いまやアメリカのほとんどの貿易相手国との貿易戦争を始めようとしている。その結果、いったん下がったインフレ率は再び上昇している。FRBのパウエル議長も利上げしたほうがいいのか、利下げしたほうがいいのか、分からなくなっているようだ。なぜならば、ホワイトハウスが何をしようとしているかについてさっぱりわからないからである。
ことの重大さはトランプ・ゲームがまだ始まったばかりであり、しかも、トランプ大統領を止めるブレーキ役がいない。米国議会も民主党議員だろうが、共和党議員だろうが、あきれた様子である。行けるところまで行ってもらうしかないかもしれない。しかし、このゲームが4年間も続くと思うと、ぞっとする。国際政治学者の一部はトランプ氏の暴挙が2年後の中間選挙でトーンダウンするというが、たとえそうであっても、傷が相当深くなる。
ユーラシアグループのイアン・ブレマー氏が上げた「グローバルリスク2025」のNo.1は「深まるGゼロ世界の混迷」であり、そして、No.2は「トランプの支配」である。2025年のグローバルリスクはチャイナリスクよりも、トランプリスクのほうが心配である。
トランプ氏は不法移民に強い反感を持っているようだ。一期目のとき、トランプの壁を構築して、不法移民の流入を止めようとしたが、不発に終わった。二期目が発足して、すぐさますでに流入している不法移民の強制送還を始めた。しかし、これも気が遠くなるような作業になりそうだ。
トランプ氏がもう一つ不満を持っているのはワシントンの官僚機構である。ニューヨークに本拠地を置くトランプ氏からみると、ワシントンの官僚機構が腐敗の塊のように映る。トランプ氏は官僚機構にメスを入れるために、イーロン・マスクを起用した。異端児のマスク氏はトランプ氏に応えるべく、すぐさまワシントンの官僚機構に対して外科手術を施している。
しかし、官僚機構の改革は企業の経営合理化と質の違う作業である。マスク氏は官僚機構を壊しているが、その継続性と安定性が損なわれないか心配されている。
ここで考えなければならないのはトランプ氏の当選が偶然性のもたらした結果かどうかである。アメリカの選挙民はトランプ氏一期目の仕事ぶりを自分の身で体験しているにもかかわらず、それでも半数以上の有権者がトランプ氏に一票を投じた。少なくとも、その瞬間においてアメリカの選挙民の半分程度はトランプ政治に何かを共感していた。その何かがまさにトランプ氏の破壊力である。
人間は自分と関係のないところで起きる破壊活動を楽しく傍観する野次馬の心理状態に陥ることがある。とくに、アメリカのような格差の大きい社会において不満を持つ「負け組」の人々は社会の安定よりも、社会の枠組みをすべてぶっ壊してほしいと考える。
二回目の選挙においてトランプ氏にとって有利だったのはalways Trumpの人々に加え、never Trumpの人々の一部がトランプの破壊力に共感して一票を投じたことだった。したがって、トランプ氏の当選は偶然ではなくて、必然の結果であると認識されるべきである。
しかし、今になって、トランプ氏に一票を投じた人々のかなりの部分は後悔しているはずである。彼らはトランプ氏の破壊活動が自分と無関係と思っていたが、無関係ではなかった。なぜならば、トランプ政権が発足してから、アメリカ経済はもっと悪くなる兆しが見えてきたからである。
民主党政権は社会福祉を強化しようとしたのに対して、トランプ氏は社会福祉について無関心である。そのなかで一期目のトランプ政権は中国との貿易戦争を仕掛けたが、いまやアメリカのほとんどの貿易相手国との貿易戦争を始めようとしている。その結果、いったん下がったインフレ率は再び上昇している。FRBのパウエル議長も利上げしたほうがいいのか、利下げしたほうがいいのか、分からなくなっているようだ。なぜならば、ホワイトハウスが何をしようとしているかについてさっぱりわからないからである。
ことの重大さはトランプ・ゲームがまだ始まったばかりであり、しかも、トランプ大統領を止めるブレーキ役がいない。米国議会も民主党議員だろうが、共和党議員だろうが、あきれた様子である。行けるところまで行ってもらうしかないかもしれない。しかし、このゲームが4年間も続くと思うと、ぞっとする。国際政治学者の一部はトランプ氏の暴挙が2年後の中間選挙でトーンダウンするというが、たとえそうであっても、傷が相当深くなる。
ユーラシアグループのイアン・ブレマー氏が上げた「グローバルリスク2025」のNo.1は「深まるGゼロ世界の混迷」であり、そして、No.2は「トランプの支配」である。2025年のグローバルリスクはチャイナリスクよりも、トランプリスクのほうが心配である。