米中関税戦争は次のフェーズに入る可能性が高い (特任教授 柯隆)
静岡県立大学グローバル地域センター
特任教授 柯隆
特任教授 柯隆
(Pixabayのbellegyが撮影した写真)
さる4月2日、トランプ政権は世界185か国・地域に相互関税を発動した。そのなかで、中国に34%の関税を発動すると発表。そして、中国の貿易中継地の国、ベトナムやカンボジアなどにも軒並み40%以上の相互関税を発動するとしている。これは明らかに中国に対する包囲網である。すなわち、中国にある輸出企業が米国の関税を回避してベトナムなどを経由してアメリカへの輸出を図ろうとすると思われているが、今回の措置はそれを封じ込めるためのものである。
トランプ政権一期目のときに中国に課した関税に合算すれば、今回の関税と合わせて、おおよそ80%の関税が課される計算になっている。現実問題としてどんな製造業でも80%の関税をクリアできる収益を稼ぐことはできない。これで実質的に米中デカップリングが行われることになる。
こうしたなかで、トランプ政権の相互関税に対して、習近平政権も負けずに同等の34%の報復関税を発動すると発表した。これは相互関税の前の報復関税20%に合算すれば、同様に54%の関税になる。中国がアメリカから輸入している農産物や原材料などは54%の関税をクリアできない。これで米中が完全に分断されることになる。
それだけでなく、トランプ氏は習近平政権の報復関税に怒り、中国が報復関税を撤回しなければ、さらに50%の追加関税を課すと警告している。むろん、すでに80%近い関税が適用されるため、そのうえ、さらに50%の関税が追加されても、中国にとってそれ以上のダメージがない。
問題は米中の関税掛け合いゲームがいつ、どのようになったら下火になるかである。まず、米中首脳会談がいつ開催されるかである。今のところ、米中は首脳会談を開催する雰囲気にない。このような拗れた状況が当面続くと思われる。
ここで心配されるのは、習近平政権がトランプ政権にダメージを与える有効なカードを持っていないが、中国政府が持っている米国債を売却する可能性があって、そうなれば、ドルが暴落するということである。日経新聞など日本のメディアはすでに報じているが、中国は米国債を売却する可能性があるといわれている。
それが現実的に行われると、トランプ政権は間違いなく中国に金融制裁を行うとみられている。そうなれば、米中関税戦争は新たなフェーズに入り、金融戦争に突入することを意味する。
米中関税戦争は喧嘩両成敗のゲームだが、習近平主席にとっては、人民が不満があっても、それをアメリカのせいにすることができ、暴動が起きる可能性も低い。多少の混乱があっても、力で抑えることができる。それに対して、トランプ氏にとってたいへん困った状況になる可能性が高い。なぜならば、これから毎週末全米の主要都市で反トランプの抗議デモが起きるだろう。トランプ氏がいつまでそれに我慢できるかである。トランプ氏がどんなに我慢しても、中間選挙に近づくようになれば、内輪の共和党議員からの批判が強くなるだろう。したがって、習近平政権にとって今は向かい風の風速が激しいタイミングである。今はひたすら我慢するしかない。
最後に、日本はすでに米中対立に巻き込まれている。これから日米両政府高官の交渉が行われると報道されている。石破政権にとって日本への相互関税を撤廃ないし引き下げてもらうだけでなく、相互関税による世界経済への影響をきちんと説明すべきである。さもなければ、日本経済の脱デフレが腰折れになる可能性が高い。
トランプ政権一期目のときに中国に課した関税に合算すれば、今回の関税と合わせて、おおよそ80%の関税が課される計算になっている。現実問題としてどんな製造業でも80%の関税をクリアできる収益を稼ぐことはできない。これで実質的に米中デカップリングが行われることになる。
こうしたなかで、トランプ政権の相互関税に対して、習近平政権も負けずに同等の34%の報復関税を発動すると発表した。これは相互関税の前の報復関税20%に合算すれば、同様に54%の関税になる。中国がアメリカから輸入している農産物や原材料などは54%の関税をクリアできない。これで米中が完全に分断されることになる。
それだけでなく、トランプ氏は習近平政権の報復関税に怒り、中国が報復関税を撤回しなければ、さらに50%の追加関税を課すと警告している。むろん、すでに80%近い関税が適用されるため、そのうえ、さらに50%の関税が追加されても、中国にとってそれ以上のダメージがない。
問題は米中の関税掛け合いゲームがいつ、どのようになったら下火になるかである。まず、米中首脳会談がいつ開催されるかである。今のところ、米中は首脳会談を開催する雰囲気にない。このような拗れた状況が当面続くと思われる。
ここで心配されるのは、習近平政権がトランプ政権にダメージを与える有効なカードを持っていないが、中国政府が持っている米国債を売却する可能性があって、そうなれば、ドルが暴落するということである。日経新聞など日本のメディアはすでに報じているが、中国は米国債を売却する可能性があるといわれている。
それが現実的に行われると、トランプ政権は間違いなく中国に金融制裁を行うとみられている。そうなれば、米中関税戦争は新たなフェーズに入り、金融戦争に突入することを意味する。
米中関税戦争は喧嘩両成敗のゲームだが、習近平主席にとっては、人民が不満があっても、それをアメリカのせいにすることができ、暴動が起きる可能性も低い。多少の混乱があっても、力で抑えることができる。それに対して、トランプ氏にとってたいへん困った状況になる可能性が高い。なぜならば、これから毎週末全米の主要都市で反トランプの抗議デモが起きるだろう。トランプ氏がいつまでそれに我慢できるかである。トランプ氏がどんなに我慢しても、中間選挙に近づくようになれば、内輪の共和党議員からの批判が強くなるだろう。したがって、習近平政権にとって今は向かい風の風速が激しいタイミングである。今はひたすら我慢するしかない。
最後に、日本はすでに米中対立に巻き込まれている。これから日米両政府高官の交渉が行われると報道されている。石破政権にとって日本への相互関税を撤廃ないし引き下げてもらうだけでなく、相互関税による世界経済への影響をきちんと説明すべきである。さもなければ、日本経済の脱デフレが腰折れになる可能性が高い。