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トランプ政権が簡単には倒れない理由(特任助教 西恭之)




6月19日 特任助教 西恭之
昨年の米大統領選にロシア政府がトランプ陣営と共謀して干渉した疑惑は、司法妨害や経済犯罪の疑惑に広がり、トランプ大統領に不利な展開が続いている。

とはいえ、疑惑が解消することはありえないといっても、これから1年程度で政権高官が起訴、または大統領が弾劾されて決着する可能性も低い。FBI(連邦捜査局)など情報機関は、共謀に関する秘密の証拠を握っていることが確実だが、それは裁判の証拠として使えない。また、大統領を裁く唯一の方法である弾劾は、多数の議員の賛成を必要とするので、刑事裁判よりもさらにハードルが高い。

というわけで、米国の対外政策は疑惑が決着するまで、大統領が国務長官や国防長官と調整しないで発言する状態が続き、国内政策のほうは議会共和党が主導することになる。

FBIのコミー前長官は6月8日の上院情報委員会で証言中、トランプ氏がロシアと共謀した可能性について質問され、「公開の場で答えてよいとは思わない」と答えた。この回答は、証拠はあるが秘密なので、秘密会でしか説明できないということを、秘密を漏らさずに表現したものだ。

コーツ国家情報長官とNSA(国家安全保障局)のロジャーズ長官は、FBIの捜査をやめさせるようトランプ大統領に頼まれたのかについて、公開証言を拒否した。しかし、二人はその後、秘密会で長時間証言しているので、そのように依頼された可能性が濃厚だ。

それでもコミー氏は、トランプ氏の疑惑の捜査には時間がかかると一貫して強調してきた。情報機関が集めた秘密の証拠は、裁判での証拠能力がなく、一般市民の陪審に見せることもできないので、FBIが警察機関として新たな証拠を見つけるための、手がかりとしてしか使えないからだ。スパイの共謀を起訴するためには、先に起訴が可能となった者と司法取引して、他の共謀犯について証言させることが欠かせないが、トランプ氏の場合も同じことが言える。

大統領の弾劾は、訴追に下院の出席議員の過半数の賛成、有罪判決には上院の出席議員の3分の2の賛成を必要とする。来年の中間選挙で、民主党が下院の過半数を制した場合も、上院では半数を超えない可能性が高いので、民主党議員だけでは弾劾できない。また、弾劾に一度失敗すると、二回目の政治的なハードルが上がると広く信じられていることも、訴追の動きを封じる効果がある。

それに意外かも知れないが、トランプ政権が弾劾を避けるため議会共和党に依存し、民主党やメディアが疑惑に注目している現状は、議会共和党にとって好ましいという現実もある。トランプ氏の公約に反して中間層・労働者層向けの歳出を削減し、富裕層減税の財源にできるからだ。そうした経済政策が立法化された段階で、共和党議員の選挙にとってトランプ大統領が重荷になっているかどうかによって、トランプ氏の運命が決まる。