揺れに備えておいてよかったを増やしたい(客員教授 堀 高峰)
6月21日 客員教授 堀 高峰
「地震発生の予測を研究している。」というと、以前は「この辺でいつ地震が起こるかがわかったら教えて。地震が起こるまで逃げておくので。」と言われることがよくありました。最近は「地震の予知はやっぱり難しいの?」と言われることが増えてきましたが、「事前にわかれば逃げられるから、期待している。」と逃げるための情報として期待されていることは変わりません。
こちらとしては、「いつ起こるかはわからないので、いつ地震が起きて揺れても困らないように、今のうちに備えておいて欲しい。例えば、寝ていて本棚が倒れてきたりしないように固定したり、本や食器が落ちてこないようにしたりすることが大事。具体的には…」と、身近でできること、実際に自分もしていることを伝えるようにしています。
「いつ起こるかがわかればその時逃げる」のではなく、「いつ揺れても困らないように備えておく」という人が増えて欲しい、大地震にみまわれたときに、「備えておいてよかった」と思える人が増えて欲しいと思って、機会があるたびに揺れへの備えを伝えています。そして、備えておくべき地震はどのような地震なのかを合わせて伝えるようにしています。
東日本大地震を起こした2011年東北地方太平洋沖地震のように、海の下で起きて津波をもたらす海溝型巨大地震は、絶え間なく続くプレートの動きと、プレート同士の境界の断層が固着することで周辺の岩盤にひずみが蓄積し、その固着がはがれて断層のずれが生じ、蓄積していたひずみを解消する過程です。図はプレート境界での固着の度合いを地表の変形から推定した結果の例です。東北地方太平洋沖地震は、数百年かけて蓄積してきたひずみを一気に解消したばかりですので、当面同じような地震は起こりません。100年前に関東大震災を起こした1923年大正関東地震で断層のずれが生じた部分も同様です。しかし、それ以外のところでは着々とひずみが蓄積されており、いずれ必ず、固着がはがれて断層がずれ、大きな揺れが伝わり、津波も伴います。
一方、阪神淡路大震災を起こした1995年兵庫県南部地震のような、内陸の活断層に関係した地震もあります。活断層は、断層のずれが繰り返し起きてきたことの爪痕です。プレート同士の動きの影響を受けて、プレート境界よりはゆっくりですが、着々とひずみが蓄積され、千年程度に一度、断層のずれが起こります。活断層があるということは、その下につながる断層の固着がはがれてずれるような大地震が、いずれ必ず起こることを意味しています。
そして、海溝型巨大地震と活断層の下で起こる地震には、関係があります。西日本であれば、南海トラフの巨大地震の数十年前から被害地震が比較的多く発生する活動期というものがあります。海溝型巨大地震が起こって周辺のひずみが解消される際に、内陸の下の断層をずらそうと蓄積されていたひずみも、一部解消される場合があります。その解消された分を取り戻して、さらに蓄積が進んで、地震が起こり出すのが活動期です(*)。兵庫県南部地震は活動期に入ったことの表れと考えており、西日本では、南海トラフ巨大地震の本体が起こる前に、足元の内陸地震への備えが引き続き必要です。
北海道から東北地方北部も同様なことが当てはまるのではないかと考えています。図の通り、北海道の太平洋沖では、500年間隔地震と言われるM9クラスの地震が数百年に一度発生しており、前回発生したとされる17世紀からの経過時間から、その発生が近づいていると考えられています。近年の内陸での被害地震の発生は、その活動期を示している可能性もあり、沖合の地震と合わせて内陸の地震への備えも大切です。
関東については、実は関東大震災後の静穏期をまだ抜けておらず、これから活動期に向かうと考えています。つまり首都直下の地震は今後こそ備えが大切ということです。なお、国から公表されている首都直下地震の発生確率は、関東大震災前の活動期を含んだものですので、これ以上確率が高くなるという訳ではありません。また、大正関東地震でずれなかった房総半島の下から東側や、房総半島のはるか東の沖合で1600年代に起きた津波地震(揺れよりも大きな津波が来る)への備えも必要です。
「最近色々なところで地震が多いけど大丈夫?大きな地震の前触れとか?」と尋ねられますが、「それはわからないけれど、そう思ったいまのうちに、揺れても大丈夫なように備えておいてね。」と伝えています。日本というのは、複数のプレートが集まり、必然的にひずみが蓄積し、地震によって解消されることを繰り返してできてきた場所であり、今後も確実に、様々な場所で地震が繰り返します。揺れに対する備えは、お金も時間もかかることであり、個人でも企業でも、できることは限られるかも知れません。もし耐震性が心配な建物なら、耐震診断を自治体の補助制度等も活用して受け、対策をしておくことができれば安心ですが、そのための国のより手厚い支援の必要性も感じます。
自分の足元が揺れた時、備えておいてよかったと思う人が増えるように、地震が必然的に起こる準備の仕組みを知ってもらうとともに、揺れても大丈夫な備えをしておく必要性を、これからも伝えていきたいと思っています。
こちらとしては、「いつ起こるかはわからないので、いつ地震が起きて揺れても困らないように、今のうちに備えておいて欲しい。例えば、寝ていて本棚が倒れてきたりしないように固定したり、本や食器が落ちてこないようにしたりすることが大事。具体的には…」と、身近でできること、実際に自分もしていることを伝えるようにしています。
「いつ起こるかがわかればその時逃げる」のではなく、「いつ揺れても困らないように備えておく」という人が増えて欲しい、大地震にみまわれたときに、「備えておいてよかった」と思える人が増えて欲しいと思って、機会があるたびに揺れへの備えを伝えています。そして、備えておくべき地震はどのような地震なのかを合わせて伝えるようにしています。
東日本大地震を起こした2011年東北地方太平洋沖地震のように、海の下で起きて津波をもたらす海溝型巨大地震は、絶え間なく続くプレートの動きと、プレート同士の境界の断層が固着することで周辺の岩盤にひずみが蓄積し、その固着がはがれて断層のずれが生じ、蓄積していたひずみを解消する過程です。図はプレート境界での固着の度合いを地表の変形から推定した結果の例です。東北地方太平洋沖地震は、数百年かけて蓄積してきたひずみを一気に解消したばかりですので、当面同じような地震は起こりません。100年前に関東大震災を起こした1923年大正関東地震で断層のずれが生じた部分も同様です。しかし、それ以外のところでは着々とひずみが蓄積されており、いずれ必ず、固着がはがれて断層がずれ、大きな揺れが伝わり、津波も伴います。
一方、阪神淡路大震災を起こした1995年兵庫県南部地震のような、内陸の活断層に関係した地震もあります。活断層は、断層のずれが繰り返し起きてきたことの爪痕です。プレート同士の動きの影響を受けて、プレート境界よりはゆっくりですが、着々とひずみが蓄積され、千年程度に一度、断層のずれが起こります。活断層があるということは、その下につながる断層の固着がはがれてずれるような大地震が、いずれ必ず起こることを意味しています。
そして、海溝型巨大地震と活断層の下で起こる地震には、関係があります。西日本であれば、南海トラフの巨大地震の数十年前から被害地震が比較的多く発生する活動期というものがあります。海溝型巨大地震が起こって周辺のひずみが解消される際に、内陸の下の断層をずらそうと蓄積されていたひずみも、一部解消される場合があります。その解消された分を取り戻して、さらに蓄積が進んで、地震が起こり出すのが活動期です(*)。兵庫県南部地震は活動期に入ったことの表れと考えており、西日本では、南海トラフ巨大地震の本体が起こる前に、足元の内陸地震への備えが引き続き必要です。
北海道から東北地方北部も同様なことが当てはまるのではないかと考えています。図の通り、北海道の太平洋沖では、500年間隔地震と言われるM9クラスの地震が数百年に一度発生しており、前回発生したとされる17世紀からの経過時間から、その発生が近づいていると考えられています。近年の内陸での被害地震の発生は、その活動期を示している可能性もあり、沖合の地震と合わせて内陸の地震への備えも大切です。
関東については、実は関東大震災後の静穏期をまだ抜けておらず、これから活動期に向かうと考えています。つまり首都直下の地震は今後こそ備えが大切ということです。なお、国から公表されている首都直下地震の発生確率は、関東大震災前の活動期を含んだものですので、これ以上確率が高くなるという訳ではありません。また、大正関東地震でずれなかった房総半島の下から東側や、房総半島のはるか東の沖合で1600年代に起きた津波地震(揺れよりも大きな津波が来る)への備えも必要です。
「最近色々なところで地震が多いけど大丈夫?大きな地震の前触れとか?」と尋ねられますが、「それはわからないけれど、そう思ったいまのうちに、揺れても大丈夫なように備えておいてね。」と伝えています。日本というのは、複数のプレートが集まり、必然的にひずみが蓄積し、地震によって解消されることを繰り返してできてきた場所であり、今後も確実に、様々な場所で地震が繰り返します。揺れに対する備えは、お金も時間もかかることであり、個人でも企業でも、できることは限られるかも知れません。もし耐震性が心配な建物なら、耐震診断を自治体の補助制度等も活用して受け、対策をしておくことができれば安心ですが、そのための国のより手厚い支援の必要性も感じます。
自分の足元が揺れた時、備えておいてよかったと思う人が増えるように、地震が必然的に起こる準備の仕組みを知ってもらうとともに、揺れても大丈夫な備えをしておく必要性を、これからも伝えていきたいと思っています。
図:地表の変形から推定されたプレート境界の固着度合いの分布(橋本, 2011を改変)。
(*)活動期の解説:https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/column-20180622/
(*)活動期の解説:https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/column-20180622/