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北朝鮮軍事衛星の読み方(特任教授 小川 和久)


8月16日 特任教授 小川 和久
 北朝鮮は5月31日、初の「軍事偵察衛星」を打ち上げたが失敗、胴体の残骸や搭載カメラなどを引き揚げた韓国軍は7月5日、北朝鮮の人工衛星には「偵察衛星として軍事的に利用できる性能は全くない」との見解を示した。

 北朝鮮の人工衛星については、米国の空母打撃群の位置を確認し、攻撃できるようになるのではないかといった懸念が、打ち上げ前から囁かれてきた。しかし、情報収集における人工衛星の能力は万能ではない。必要な情報全体を100とすれば人工衛星が担う部分は30パーセント以下といってよい。

 これまで機会あるごとに説明してきたことだが、その現実は一人の人間を観察することに例えればわかりやすいかも知れない。
どんなに解像度が高い偵察衛星でも、その人物の顔のニキビをクローズアップできるかも知れないが、それだけでは誰の顔なのか、顔のどこにできたニキビなのかわからない。まして、その人物がどんな社会的役割を果たしているのか、その人物が所属する組織が国家的に、国際的に果たしている機能などわかろうはずはない。

 それを明らかにするのは、SIGINT(シグナル・インテリジェンスー通信、電磁波、信号などの主として傍受を利用した諜報活動)、OSINT(オープンソース・インテリジェンスーニュースや論文など合法的に入手できる資料を調べて突き合わせる手法)、エリアスタディ(地域研究)とヒューミント(人間による情報活動)である。それらの活動の成果を組み合わせないと、偵察衛星の情報を活用することはできないのだ。10センチ以下の解像度を持つとされる米国の偵察衛星は、上記の条件を満たしているからこそ、目標の観察すべき個所をピンポイントで精密偵察を行うことができると言ってよい。

 軍事アナリストの小泉悠氏(東京大学先端技術研究センター専任講師)は8月4日の毎日新聞で、次のエピソードを紹介している。
「旧ソ連軍は、米国防総省の中庭の真ん中にある建物を偵察衛星で監視し続けました。人の出入りが多く、『巨大地下施設の入り口』だと考えたのです。この建物、実はホットドッグスタンドでした。ソ連では大きな食堂で、決まった時間にみんなで食事をしていました。だから、各人がばらばらにホットドッグやハンバーガーを買う食文化が想像できなかったのです。相手国の文化を知らないと、どんなハイテクも無駄になります」

 人工衛星を軍事的に活用するには、以上のような条件を満たす取り組みが不可欠となる。
北朝鮮にしても、米国空母などの位置情報を入手したければ、米国の民間衛星の情報を、ダミーを使って購入し、それを補う情報を中国やロシアから提供してもらえばすむことだ。北朝鮮に米空母を精密攻撃する能力がない以上、それ以上の衛星情報は必要ない。

 このようにながめると、北朝鮮は当面、内外に国威を誇示する目的で人工衛星の打ち上げに取り組み、軍事偵察衛星としても最初は韓国(今年末に初号機)、次いで日本(9機)のレベルへと、時間をかけて歩むと考えられる。

5月16日、衛星発射準備委員会の活動を金正恩(キムジョンウン)総書記が視察した。
娘が同行した。(マスクなしの二人。朝鮮中央通信が配信した)