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中国国有企業改革の罠(特任教授 柯隆)




10月21日 特任教授 柯隆
中国の今年第三四半期のマクロ経済統計が発表され、実質GDP伸び率は6.7%だった。結論からいえば、ほとんど意外な感のない結果といえる。「6.7%成長」に関しては、「景気は回復に転じていないが、クラッシュもしていない。」と読むことができるだろう。中国経済の先行きについては、依然として油断できない状況だ。

なぜ中国の景気は好転しないのだろうか。一言でいえば、改革がほとんど効果を上げていないからである。

中国経済にとって一番の邪魔者といえば、国有銀行と国有企業である。振り返れば、国有企業改革は1980年代に、「政企分離」といって政府機能と企業の経営機能を分離したが、経営が改善されなかった。90年代に入り、近代的企業制度の建設といって国有企業を株式会社に再編した。それによって国有企業には資金調達の道が切り開かれたが、国有企業に対するガバナンスは確立されていない。

2009年、中国政府はリーマンショックの影響を防ぐために、突如として4兆人民元(当時の為替レートでは、約56兆円相当)の財政出動を実施した。しかし、その巨額の資金が国有企業に流れたが、国有企業はその資金の一部分を不動産投資に使い、残りは民営企業の買収に使った。これは「国進民退」と表現されている。すなわち、本来、改革されるはずの国有企業が逆に民営企業の買収に乗り出したということである。

今、中国政府は国有企業改革についてより大きくより強くする方針を打ち出している。中国の国有企業といえば、朱鎔基元総理の時代、「掴大放小」という改革が進められた。それは大型国有企業をそのまま維持するが、中小国有企業を自由化し、民間に払い下げてもいいという改革だった。結果的に、中央政府管轄の大型国有企業は140社ほど(当時)残った。

今回、国有企業をより大きくより強くするという改革は、これらの大型国有企業の吸収・合併(M&A)を進めることである。具体的に、鉄道車両メーカーの合併と海運の一体化がすでに進められた。それに、国有の石油化学工場の合併も現在進められている。

しかし、ここで問われているのは、吸収・合併で国有企業を大きくすることができるが、それによって国有企業が強くなるのだろうか、ということだ。もし国有企業を大きくすることでその競争力が強くなるならば、「改革・開放」初期、「政企分離」といった苦労はなかったはずである。

国有企業の経営が改善されない一番の原因はそれに対するコーポレート・ガバナンス機能が確立されていないからである。国有企業を大きくすることで、競争が妨げられ、ガバナンスも確立しないため、見た目では、肥大化する国有企業はメタボになり、経営効率はますます悪化する恐れがある。

何よりも共産党中央は国有企業に対する党の指導体制を強化しようとしている。30年前に、「政企分離」が進められたにもかかわらず、国有企業に対する党の指導体制強化は改革を逆行させる可能性がある。国有企業の競争力を強化する唯一の方法は自由化である。市場競争に適さない企業は破綻処理するしかない。国有企業の肥大化は必ずや中国経済の活性化を邪魔することになるに違いない、というのが私の結論である。