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形式に流れる国民保護(特任教授 小川和久)




2月12日 特任教授 小川和久(特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長)
有効な住民避難計画は存在するのか。

2月7日、北朝鮮が人工衛星打ち上げ名目で大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行い、またぞろマスコミは「ミサイルか」「ロケットか」と見当違いの大騒ぎを繰り広げた。

そんな報道ぶりにあって、専門家の一員として気がかりでならないことがある。住民避難だ。

発射後の政府の対応について、マスコミは次のように報じた。
「(前略)政府はミサイル発射を受け、緊急情報ネットワーク『エムネット』と全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じて、全国各地の地方自治体などに発射情報を伝達。(後略)」(2月7日付け毎日新聞)

その後の対応は、打ち上げコース直下の沖縄県宮古島市でさえ心許ないレベルだった。
「(前略)発射情報を(中略)受け、同9時35分ごろから複数回、市の防災無線で『(中略)念のため、ただちに屋内に避難してください』と(中略)計6回放送した。(後略)」(7日付け宮古毎日新聞)

これでよいはずはない。2009年4月の発射の時、私は次の苦言を政府に呈した。
「悪くすればロケットの破片や燃え残った毒性の強い液体燃料が降ってくる可能性があるというのに、打ち上げコースの直下に位置する東北地方の住民に対して、避難命令が出されず、事前の訓練も行われなかったのはなぜか」

対する政府の説明は、国民保護法の名前が「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」となっており、北朝鮮が「人工衛星打ち上げ」と言っている限りは武力攻撃事態を認定できず、従って住民避難も命令できないというものだった。

ちなみに、国民保護法の関係部分は次のように定められている。

第52条  対策本部長は、第四十四条第一項の規定により警報を発令した場合において、住民の避難(屋内への避難を含む。以下同じ。)が必要であると認めるときは、基本指針で定めるところにより、総務大臣を経由して、関係都道府県知事(次項第一号又は第二号の地域を管轄する都道府県知事をいう。以下この節において同じ。)に対し、直ちに、所要の住民の避難に関する措置を講ずべきことを指示するものとする。

第54条  避難措置の指示を受けたときは、要避難地域を管轄する都道府県知事は、その国民の保護に関する計画で定めるところにより、要避難地域を管轄する市町村長を経由して、当該要避難地域の住民に対し、直ちに、避難すべき旨を指示しなければならない。この場合において、当該都道府県知事は、地理的条件、交通事情その他の条件に照らし、当該要避難地域に近接する地域の住民をも避難させることが必要であると認めるときは、当該地域を管轄する市町村長を経由して、当該地域の住民に対し、避難すべき旨を指示することができる。

これを読む限り、地方自治を口実として地方自治体に丸投げになっている恐れがあり、実効性のある取り組みをしている県、そうでない県が分かれそうだ。すべての地方自治体の国民保護計画を検証する必要があるのではないか。