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服装でわかる危機管理組織の実力(特任教授 小川和久)


6月10日 特任教授 小川和久(特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長)
私が静岡県の危機管理に関わるようになって、8年目に入った。その間、危機管理部を筆頭の部局にするなど、「防災先進県」の名に恥じぬよう職員を挙げての懸命の取り組みが進められてきた。しかし、残された「隙間」の数々に対して、思案投げ首となることも少なくない。

例えば、非常参集時の県職員の服装だ。

今年も4月24日、全職員非常参集訓練が行われた。私は、それを評価する立場で午前6時過ぎから目を光らせていたが、県庁に集まってくる職員は100%、私服姿である。防災服と呼ばれる作業服に着替え、安全靴を履くのは職場に着いてからだ。その姿を眺めながら、県民の命が危険にさらされている事態にあたって、「これで済ませられるのか」と思った。

これが自衛隊なら、部隊内に起居している営内居住の隊員はむろんのこと、部隊の外に住む営外居住の隊員も、非常呼集がかかったときは迷彩が施された作業服姿である。これが危機と向き合わなければならない組織の当たり前の姿だ。

静岡県の職員にしても、緊急事態には自宅で防災服を着用し、県庁に来るのが基本的な在り方だと思う。特に非常参集要員に指名された職員なら、なおさらのことだ。

なぜ、防災服姿でなければならないのかと言えば、県庁についてすぐに災害対策などに動く必要があるからだ。私服で出勤してきて、それから着替えるといった余裕はないと考えるべきだろう。

それに、家を出てから県庁に向かう途中で、県庁以外の場所に向かうよう指示されることも考えておかなければならない。自宅と県庁との間で、ケガを負った被災者を救助しなければならないこともあるだろう。そんな場合、スーツなどの私服姿のまま活動するというのだろうか。まさか、そんな場合でも「県庁に行って防災服に着替えてから」などというのではないと信じたい。

だから、危機管理部の幹部には防災服は自宅に置くことを徹底するように言っている。最初のうちは、「自宅と県庁に置いておくために防災服が2着必要」と反発する声も聞こえたが、そうする方向に変わりつつあるようだ。

関連して思い出されるのは、2015年8月末の総合防災訓練だ。午前7時、大雨のため訓練は中止となった。私と一緒にいた故・君塚栄治静岡県補佐官(元陸上幕僚長)が「延期か」と聞くと、当時の危機管理監から「中止」との回答。次回は1年後だという。雨の中での訓練に変更するつもりはないかと質すと、危機管理部には雨具の用意がないという。雨が降ったら外で活動しない危機管理部など聞いたことがない。川勝平太知事への君塚補佐官の進言もあって、それから徐々に雨具が備えられるようになったが、今回の防災服にも似たようなところがある。

静岡県が防災服で参集させなかったのは、「防災服姿を見ると、県民が本物の災害だと思って動揺するから」だという。これもおかしな理屈だ。たとえ訓練であっても、参集中に大地震が起きるかもしれないではないか。

防災服姿を見ても動揺しないよう、日頃から啓蒙し、訓練するのも重要な災害対策である。危機管理にとって、自分たちからは何も行動を起こさない「駿河の『やめまいか』」は、実は内なる大敵である。それを心に刻みたいものだ。