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ローンウルフ型テロはほとんどない(特任助教 西恭之)


8月23日 特任助教 西恭之
欧米におけるIS(いわゆる「イスラム国」)のテロと、米国などで頻発している白人至上主義テロには共通点がある。社会的に孤立したローンウルフ(一匹狼)と報道されたが、実際は過激派のオンライン・コミュニティの一員であり、自分が運動に参加していると認識していた犯人が少なくないことだ。

3月15日のニュージーランド・クライストチャーチ・モスク銃乱射事件、4月27日の米カリフォルニア州パウエイ・ユダヤ教会堂銃乱射事件、そして8月3日の米テキサス州エルパソ・ウォルマート銃乱射事件の犯人は、それぞれ画像掲示板「8chan」に犯行声明を投稿していた。

クライストチャーチ事件の犯行声明の題は「大いなる交代(ザ・グレート・リプレースメント)」という。「大いなる交代」とは、白人が多数派の国で、白人を少数派にするための移民政策が進められているという陰謀論である。

パウエイ乱射犯は、ユダヤ人がこの陰謀の黒幕だとして、クライストチャーチ事件のほか、2018年10月27日のピッツバーグ・ユダヤ教会堂銃乱射事件を称賛した。

エルパソ乱射犯は、クライストチャーチ事件を称賛する一方で、自分の敵はテキサスを「侵略」しているヒスパニックだと声明した。むろん、エルパソなど米国南西部はかつてメキシコ領で、ヒスパニックのほうが先に住んでいた。エルパソ事件後、8chanは、ネットワーク・インフラの提供を業者が中止したため、通常のブラウザでは閲覧できなくなっている。

この犯人たちはそれぞれ、実行したテロについて他人の指示を受けておらず、ローンウルフにみえる。

しかし、彼らはオンライン・コミュニティを通じて、運動に参加しているという連帯感を覚え、敵の集団を殺害すべきだという規範を強め、実行した。社会から取り残されていると感じている人々に対し、それは他の集団のせいであり、その集団を罰すべきだと説くコミュニティがあれば、誰かがその主張を実行することになる。

欧米におけるISのテロは、少なくない例が、IS支配地域の工作員に企画され、インターネットを通じて勧められ、指示された者が実行した「リモコン型テロ」であることが明らかになっている。ニューヨーク・タイムズのルクミニ・カリマキ記者は2017年2月4日、ISとなんらかの関係があった2014年10月以後のテロを、各国当局者の見方をもとに、1)IS支配地域渡航者が実行したか、実行犯に直接働きかけた5件、2)リモコン型11件、3)関係不詳またはISから実行犯へ連絡のなかったローンウルフ型27件、に分類している。

実行犯に誰も指示しなかったテロも、ほとんどの場合、犯人が単独行動したのは暴力行為の段階だけであって、テロを行う意欲と能力を獲得し維持する段階では、他者との直接またはネット上の関係が重要だと、ライデン大学のバート・スクールマン講師ら研究者7名が、2017年に指摘している。この関係から情報が洩れて、テロを未然に摘発することが可能になるのだが、ローンウルフという類型は、この可能性を否定し、テロ対策を妨げるので、作られるべきではなかったという。