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いまからパンデミックに備えよ(特任教授 小川和久)


2月12日 特任教授 小川和久(特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長)
世界的な大流行の兆しを見せている新型肺炎(新型コロナウイルス感染症)について、同じようなニュースが繰り返し伝えられている。しかし、もっと致死率の高い感染症が発生し、パンデミック(世界的な感染症の流行)の兆候を見せたケースを意識した、危機管理面からの報道は皆無と言ってよい。

また、新型肺炎とは比べものにならない死者を出し続けているインフルエンザについての報道も、以下の産経新聞(2月8日付)を除いてはほとんど見られない。

「中国・武漢市で発生した新型コロナウイルスが猛威を振るう中、米国ではインフルエンザが流行している。米疫病対策センター(CDC)は7日、最新の推計値を発表。2019~20年のシーズンで患者数は2200万人に上ったとし、さらに拡大する恐れが指摘されている。(中略)

米国ではインフルエンザが原因で毎年少なくとも1万2千人以上が死亡。とりわけ感染が深刻だった17~18年のシーズンには患者数は4500万人に上り、6万1千人が死亡した。インフルエンザ感染は例年10月ごろに始まり、5月ごろまで続く。米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)は、19~20年は過去10年で最悪規模になる可能性があると予測している」

報道していないマスコミ各社の言い訳は、「インフルエンザより死者が少ないと報道すれば、新型肺炎恐るるに足らずということで、国民の間に油断が生じ、それが新型肺炎の蔓延につながるから、危機報道の優先順位として新型肺炎を大きく取り上げている。新型肺炎に備える人が増えた結果、日本国内ではインフルエンザの患者は減っている」ということになるが、それだけでよいのか。

危機管理に求められるのは、必要な手立てを適切なタイミングで講じることができるか、その能力を物心両面で備えているか、ということだ。

感染症に関する厚生労働省関係の資料を渉猟してみると、確かに訓練を行っている形跡はある。しかし、あくまでも医療関係者や行政の関係部門を対象とした基礎的かつ形式的なもので、それ以上ではない。

訓練が実施され、それを通して基礎的な知識も共有されること自体は、大いに奨励されるべきだ。問題は、「応用問題」を解くための教育・訓練が見当たらないことである。

パンデミックに直面したとき、はたして訓練通りにできるのか。自然災害と違い、多数の感染者が出た場合は、むろん救急車では追いつかなくなる。自衛隊の車両も足りなくなるかも知れない。しかし、なんとか隔離施設や隔離用のプレハブや天幕地区を確保したとしても、バスやタクシーをチャーターしようにもドライバーが感染を怖れて移送に協力しない場合は大いに考えられる。民間ヘリのパイロットも同様だ。

そんな事態に至らないためには、いまから正攻法で対策を進めるほかない。正しい知識を身につけ、十分な防護装備を備え、その知識や能力を高めながら継続的に訓練を行う。それ以外に正解はない。

いま、致死性の高い病原体の感染が始まったとして、そして今回の新型肺炎と同じくらいの速度で人から人へと感染するものだったとしても、それでも被害を局限できるよう、まずは図上訓練で「頭の体操」を行い、その結果を受けて必要な対策を策定し、物心両面から備えておく。それが今回の新型肺炎から学ぶべき最大の教訓だろう。