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コロナ脅威下の米大統領選と米中関係(特任助教 西恭之)


4月27日 特任助教 西恭之
トランプ米大統領は再選に向けて、好景気を自分の手柄だと主張してきたが、それは新型コロナウイルスの流行によって不可能となった。その代わりに、ウイルス流行に対する中国政府と世界保健機関(WHO)の責任を強調し、大統領選を、自分の信任投票よりも勝ち目のある「中国政府とWHOの信任投票」にしようとしている。

それは単なる責任逃れではない。目的は、対立候補のバイデン前副大統領ら民主党側に、米国における新型コロナウイルスの流行について、1)中国政府とWHOにも責任があると認めるのか、2)トランプ氏に全責任があると主張するのか、という選択を強いることだ。バイデン陣営が前者の立場をとるとトランプ氏の責任が軽減される一方で、後者の立場をとるなら、WHOを擁護し、「中国に弱腰」というレッテル貼りを甘んじて受けることになる。

バイデン氏が当選するための正解は、このジレンマを回避し、「トランプ大統領が中国政府に騙されたせいで新型コロナウイルスが米国に入り、トランプ氏に政権担当能力がないせいで、これほど流行した」と一貫して主張することだ。

しかしながら、対中批判は民主党支持層を分断するおそれが強いし、トランプ氏よりも強硬な対中政策をとるという主張は信憑性が低い。

民主党支持層には、人種差別として抗議の対象となりうる表現や慣行に目を光らせている、声の大きな一派がある。対中批判もWHO批判も、彼らが人種差別だと言えば党内で論争を呼び、メッセージを統一することができなくなる。

現にバイデン陣営は、新型コロナウイルス流行の初期にトランプ氏が中国政府の説明を真に受けていたことを批判する広告を4月18日から流しているが、この一派は「ザ・チャイニーズに降参した」などの表現を批判している。「ザ・チャイニーズ」のような表現は、政官界では相手国政府の意味で使われるが、あたかもバイデン氏が中国国民と中国系米国人に対する敵意をあおっているかのように批判されている。

トランプ氏は、この一派(いわゆる文化左翼)を挑発して米国社会を声高に非難させ、脅威を感じた白人の支持を集めることを得意技としている。

バイデン氏がトランプ氏よりも強硬な対中政策をとるという主張の信憑性が低い理由は、いくつもある。

まず、バイデン氏は上院議員そして副大統領として、中国に融和的な発言を長年続け、自由貿易を推進してきた。昨年3月には、国内問題の多い中国は米国の競争相手として取るに足らないという持論を述べ、共和党にもサンダース上院議員にも批判された。トランプ氏は中国の習近平国家主席をおだてているが、中国に貿易戦争をしかけて、中国製品への依存度を下げる政策を打っている。

また、トランプ陣営は昨年からバイデン氏の次男ハンター氏の中国ビジネスを繰り返し非難してきた。バイデン氏が対中政策を語るなら、自分の名前を利用したハンター氏のビジネスについて説明を求められることになる。

そもそも、バイデン氏が広告で主張しているように、米大統領が習近平氏に電話して、新型コロナウイルスの現地調査を強く要求すれば実現するというのは、誇大広告だ。中国側は都合の悪い情報を公開したくないし、ナショナリズムと大国意識が強いからだ。

このように、トランプ氏はバイデン氏の弱点を狙って、中国との自由貿易で雇用を失った州の選挙人票を得られるように、議題を設定している。