中国軍事パレード、専門家の見方(特任教授 小川和久)
静岡県立大学グローバル地域センター特任教授 小川 和久
9月3日の中国の軍事パレードについては、中露朝三国の連携と新型兵器ばかりが取り上げられるが、軍事専門家の見方は少し違う。
注目すべき第1は、パレードの編成だ。今回も先頭は横一列に並んだ5台の車両で、それぞれに陸軍、海軍、空軍、ロケット軍、武装警察の中将が起立し、習近平国家主席に敬礼した。2015年のパレードで初めて登場した編成で、それまで将官は天安門上にいてパレードに参加することはなかった。また、各部隊の先頭には同じ階級の部隊指揮官と政治委員が車両の上に立ち、中国軍のシビリアン・コントロールの徹底ぶりを内外に見せつけた。
あまり知られていないことだが、中国軍の部隊には2人の指揮官が配属されていて、戦闘行動などについては政治委員の承認が必要となっている。これは「共産党の軍隊」という位置づけによるものだが、10年前からこれを強調する演出になり、軍上層部の腐敗摘発と相まって、習近平国家主席が確実に軍をコントロールし、それによって確固たる権力を維持していることを示す軍事パレードとなった。この見方は、世界の軍事専門家と情報関係者に共通している。
第2は新型兵器の見方。たしかにAIを使った無人兵器など「新顔」は登場した。しかし、欧米兵器のようにイラク、アフガンなどの実戦を経験したことは皆無。カタログ通りの性能を発揮するかは未知数だ。ウクライナ戦争でも明らかなように「数」も重要だ。今回登場した新型兵器が高額であるほどに配備数は限られ、消耗戦には耐えられない。
いまひとつ、兵器にばかり目を奪われる向きにはインフラの問題を提起しておかなければならない。電気などインフラが社会生活の必需品であるように、軍事でもインフラが戦争を左右する。アメリカの空母を狙う対艦弾道ミサイル「空母キラー」にしても、発見→探知→追尾→攻撃→戦果の確認という「キル・チェーン」が備わっていないと張り子のトラだ。なかでもデータ中継能力はハイテク戦力になるほどに欠かせないが、米国がデータ中継に使える31機の衛星を持つのに、中国は8機。米国の空母打撃群はどの角度からでもキル・チェーンを断ち切る能力を保有しているが、中国にはそれを防ぐ能力がない。
ウクライナ戦争の教訓から眺めるべき兵器もある。極超音速兵器だ。音速の5倍以上で飛翔し、空気抵抗を利用した変則軌道のためにミサイル防衛では対処不能とされていたが、2023年5月、ウクライナ軍がロシアの極超音速兵器キンジャールとツィルコンの迎撃に成功して以来、世界の見方は変わった。実を言えば、音速の20倍以上のICBM(大陸間弾道ミサイル)でも迎撃確率が上がった今日、速度は問題ではない。そして変則軌道についてもウクライナ軍は解を示した。どんな変則軌道のミサイルも最終段階では目標に向けて直線で落下してくる。それに気づいたウクライナ軍はぎりぎりまで待ち、旧式のパトリオットPAC2でロシアの極超音速ミサイルを撃破したのだ。中国の極超音速ミサイルYJ-17についても、専門家は同様の見方をしている。