静岡県の災害について(客員教授 尾池 和夫)
静岡県立大学グローバル地域センター客員教授 尾池和夫
京都大学名誉教授、京都芸術大学特別研究員
京都大学名誉教授、京都芸術大学特別研究員
序
1978年、当時の山本敬三郎静岡県知事の顧問を私は務めた。それ以来、静岡県の大地について関心を持ち続けてきた。20世紀が終わるまで、県教育委員会との協力で「静岡県地震予知観測学習モデル校」の活動の指導を続けたために県下の土地のさまざまにも、くわしくなった。また静岡県立大学の理事長、学長も務めて、最近の県下の情勢も知ることができた。
この機会に、静岡県が本州の中央部にあって、地球科学的に見ると、本州の文字通り要となっている点について、また、大地の構造、仕組み、それらに基づく災害の種類の多さについて、概要をまとめておきたいと思う。
1978年、当時の山本敬三郎静岡県知事の顧問を私は務めた。それ以来、静岡県の大地について関心を持ち続けてきた。20世紀が終わるまで、県教育委員会との協力で「静岡県地震予知観測学習モデル校」の活動の指導を続けたために県下の土地のさまざまにも、くわしくなった。また静岡県立大学の理事長、学長も務めて、最近の県下の情勢も知ることができた。
この機会に、静岡県が本州の中央部にあって、地球科学的に見ると、本州の文字通り要となっている点について、また、大地の構造、仕組み、それらに基づく災害の種類の多さについて、概要をまとめておきたいと思う。
本州の歴史と構造
日本列島の生い立ちはよくわかっている。日本海が拡大するとき、東北日本は反時計廻りに回転しながら今の位置にやってきた。そのとき一度、海の底に沈んだ。西南日本は時計廻りに回転しながら今の位置やってきた。その東端には高い山地があった。
日本海の拡大が終わった後、4枚のプレートが集まってきて圧縮場が形成され、東北日本も隆起して西南日本に合体した。その繋ぎ目が糸魚川静岡構造線となった。その構造線の東側は、海底で堆積した泥が固結して隆起した今のフォッサマグナと呼ばれる地域になった。フォッサマグナ地域の西の端が糸魚川静岡構造線であり、東の端は明瞭ではない。
東北日本は太平洋プレートと北アメリカプレートの出会いで東西に圧縮されて隆起しており、脊梁山脈ができて、その西側では逆断層運動が盛んになった。東側の沖にはプレートの沈み込む境界である日本海溝が発達している。
西南日本は大陸でできた付加帯の構造を保存して、北の方には古い地層が、南の方には新しい地層が帯状になって存在しており、東西に走る中央構造線によって、北側の西南日本内帯と南側の西南日本外帯に分けられている。その南にはプレートの沈み込む境界である南海トラフが発達している。
100万年ほど前、南からやって来た伊豆半島を北端とする火山列島が本州に衝突して、南海トラフを、本州にめり込むように北へ押し込んでいる。火山列島はマグマが多いために軽いので、本州の下へ潜り込むことができなかったのである。そのため、伊豆半島の西側には駿河湾が、東側には相模湾ができた。その圧縮場に60万年前には愛鷹山が噴火し、次いで40万年前には箱根が噴火し、次に富士山が噴火して今に至る。
伊豆半島が衝突した100万年ほど前から本州には今の力の場ができて、それによって内陸の今の活断層運動と活火山活動が始まり、プレート境界の巨大地震と、それによる大津波が繰り返すようになった。
フィリピン海プレートは南西諸島へ向かって真っ直ぐ沈み込んでおり、それによって中央構造線には左ずれが発生し、対象の位置にあるフィリピン断層には右ずれが発生している。
日本列島の生い立ちはよくわかっている。日本海が拡大するとき、東北日本は反時計廻りに回転しながら今の位置にやってきた。そのとき一度、海の底に沈んだ。西南日本は時計廻りに回転しながら今の位置やってきた。その東端には高い山地があった。
日本海の拡大が終わった後、4枚のプレートが集まってきて圧縮場が形成され、東北日本も隆起して西南日本に合体した。その繋ぎ目が糸魚川静岡構造線となった。その構造線の東側は、海底で堆積した泥が固結して隆起した今のフォッサマグナと呼ばれる地域になった。フォッサマグナ地域の西の端が糸魚川静岡構造線であり、東の端は明瞭ではない。
東北日本は太平洋プレートと北アメリカプレートの出会いで東西に圧縮されて隆起しており、脊梁山脈ができて、その西側では逆断層運動が盛んになった。東側の沖にはプレートの沈み込む境界である日本海溝が発達している。
西南日本は大陸でできた付加帯の構造を保存して、北の方には古い地層が、南の方には新しい地層が帯状になって存在しており、東西に走る中央構造線によって、北側の西南日本内帯と南側の西南日本外帯に分けられている。その南にはプレートの沈み込む境界である南海トラフが発達している。
100万年ほど前、南からやって来た伊豆半島を北端とする火山列島が本州に衝突して、南海トラフを、本州にめり込むように北へ押し込んでいる。火山列島はマグマが多いために軽いので、本州の下へ潜り込むことができなかったのである。そのため、伊豆半島の西側には駿河湾が、東側には相模湾ができた。その圧縮場に60万年前には愛鷹山が噴火し、次いで40万年前には箱根が噴火し、次に富士山が噴火して今に至る。
伊豆半島が衝突した100万年ほど前から本州には今の力の場ができて、それによって内陸の今の活断層運動と活火山活動が始まり、プレート境界の巨大地震と、それによる大津波が繰り返すようになった。
フィリピン海プレートは南西諸島へ向かって真っ直ぐ沈み込んでおり、それによって中央構造線には左ずれが発生し、対象の位置にあるフィリピン断層には右ずれが発生している。
静岡県の災害
静岡県は、上のような仕組みの中で、力の場を支配する伊豆半島を持っており、最近の火山活動の歴史のシンボルである富士山を持っており、プレート境界の巨大地震の発生する駿河トラフから南海トラフに面している。
これによって静岡県の大地には火山噴火、巨大地震、活断層性の直下地震、津波、火山の山体崩壊、土石流、地盤崩壊などの自然災害がある。
加えて気象や海洋現象では、台風、竜巻、高潮、黒潮の蛇行、干ばつなどによる、風水害が多い地域でもある。一方、災害には自然災害のみではなく、戦争やテロなどの人為的災害、土木工事などに起因する災害もある。
具体的に静岡県に予想されている災害の例を挙げておきたい。
1. 富士山の噴火
富士山は火山学者の見解によるとすでに噴火の時期を過ぎている活火山であり、地下のマグマによる群発地震は、例えば2011年東北地方太平洋沖地震の直後から猛烈な勢いで増加していることが知られている。
2. 富士山の山体崩壊
富士山は新しい山であり、何かの切っ掛けで山体が崩壊すると、その影響は遠く千葉県まで及ぶという予測が公表されている。
3. 伊豆半島の火成活動
伊豆半島とそれに連なる火山列島の地下にはマグマ溜まりが多く、それによる火成活動はさまざまな形を取る。伊豆半島は単成火山群の形成が特徴であり、陸上の多くの場所でもマグマが噴出する可能性がある。
4. 内陸活断層の活動
静岡市の有度山のように、日本列島でも珍しいほど隆起速度の速い活断層運動の場所があり、また富士川河口断層、糸魚川静岡構造線断層のように活動時期が迫っている活断層がある。
5. 浜名湖の変動と津波
南海トラフの巨大地震による地盤沈下と、その直後の津波による災害が予測されており、地震発生から津波到達までの時間が短いという重大な課題がある。
6. 竜巻
遠州灘を中心とする予測の困難な気象現象で、最近増加傾向にあり、原子力発電所の災害なども含めて研究が必要である。
7. 活断層の誘発地震
県の北部では大規模な掘削工事による地下水の移動が予想されており、それによる活断層の大規模な活動の誘発の可能性が指摘されている。リニア中央新幹線は総延長220㎞のトンネル群からなる計画である。多くの犠牲者を出し、大規模地震を誘発し、かつ水の枯渇をもたらしたと言われる丹那トンネルよりもはるかに大規模であり、かつ地震発生確率の高い活断層を複数掘り抜くルートである。周辺の水の枯渇も当然予想される。
8. 変動地形
変動帯の地形が多く、かつ地層の弱い構造があり、大谷崩や大崩海岸を初めとする崖崩れや土石流、斜面崩壊の可能性のある地域が多い。
9. 土砂災害
毎年発生する自然災害で、死者や行方不明者が発生する割合が高い現象であり、県下の多くの場所に傾斜地があり、発生の可能性がある。
10. 豪雨
狩野川の台風災害、七夕豪雨など、豪雨災害の事例が多い。これらは繰り返して発生する可能性がある。
11. 原子力発電所
中部電力唯一の原子炉で、電源の移設や防潮堤の建設などが着実に実行されている。廃炉解体中の原子炉があり、使用済み燃料が保管されているため、全体の運転を停止していても常に十分な防災対策が必要である。
静岡県は、上のような仕組みの中で、力の場を支配する伊豆半島を持っており、最近の火山活動の歴史のシンボルである富士山を持っており、プレート境界の巨大地震の発生する駿河トラフから南海トラフに面している。
これによって静岡県の大地には火山噴火、巨大地震、活断層性の直下地震、津波、火山の山体崩壊、土石流、地盤崩壊などの自然災害がある。
加えて気象や海洋現象では、台風、竜巻、高潮、黒潮の蛇行、干ばつなどによる、風水害が多い地域でもある。一方、災害には自然災害のみではなく、戦争やテロなどの人為的災害、土木工事などに起因する災害もある。
具体的に静岡県に予想されている災害の例を挙げておきたい。
1. 富士山の噴火
富士山は火山学者の見解によるとすでに噴火の時期を過ぎている活火山であり、地下のマグマによる群発地震は、例えば2011年東北地方太平洋沖地震の直後から猛烈な勢いで増加していることが知られている。
2. 富士山の山体崩壊
富士山は新しい山であり、何かの切っ掛けで山体が崩壊すると、その影響は遠く千葉県まで及ぶという予測が公表されている。
3. 伊豆半島の火成活動
伊豆半島とそれに連なる火山列島の地下にはマグマ溜まりが多く、それによる火成活動はさまざまな形を取る。伊豆半島は単成火山群の形成が特徴であり、陸上の多くの場所でもマグマが噴出する可能性がある。
4. 内陸活断層の活動
静岡市の有度山のように、日本列島でも珍しいほど隆起速度の速い活断層運動の場所があり、また富士川河口断層、糸魚川静岡構造線断層のように活動時期が迫っている活断層がある。
5. 浜名湖の変動と津波
南海トラフの巨大地震による地盤沈下と、その直後の津波による災害が予測されており、地震発生から津波到達までの時間が短いという重大な課題がある。
6. 竜巻
遠州灘を中心とする予測の困難な気象現象で、最近増加傾向にあり、原子力発電所の災害なども含めて研究が必要である。
7. 活断層の誘発地震
県の北部では大規模な掘削工事による地下水の移動が予想されており、それによる活断層の大規模な活動の誘発の可能性が指摘されている。リニア中央新幹線は総延長220㎞のトンネル群からなる計画である。多くの犠牲者を出し、大規模地震を誘発し、かつ水の枯渇をもたらしたと言われる丹那トンネルよりもはるかに大規模であり、かつ地震発生確率の高い活断層を複数掘り抜くルートである。周辺の水の枯渇も当然予想される。
8. 変動地形
変動帯の地形が多く、かつ地層の弱い構造があり、大谷崩や大崩海岸を初めとする崖崩れや土石流、斜面崩壊の可能性のある地域が多い。
9. 土砂災害
毎年発生する自然災害で、死者や行方不明者が発生する割合が高い現象であり、県下の多くの場所に傾斜地があり、発生の可能性がある。
10. 豪雨
狩野川の台風災害、七夕豪雨など、豪雨災害の事例が多い。これらは繰り返して発生する可能性がある。
11. 原子力発電所
中部電力唯一の原子炉で、電源の移設や防潮堤の建設などが着実に実行されている。廃炉解体中の原子炉があり、使用済み燃料が保管されているため、全体の運転を停止していても常に十分な防災対策が必要である。
災害への対策と基礎研究のあり方
災害への対策は国の基本方針にもとづく都道府県の具体的な対策によって進められており、静岡県の場合には県の定めに応じてハザードマップが公表され、それにもとづく市町村の方針によって各地の住民の安全が保障されることになる。
災害は予想通りに発生するとは限らず、むしろ予想を外れて起こることの方が多い。そのため、防災対策は一方で常に基礎的な研究成果を取り込んでいくことが重要である。また、基礎研究の成果を住民が正しく理解していることが、究極の防災対策につながるという点が重要である。
基礎研究は国の研究機関や大学で行われるが、その一般化された研究成果を、地域の特性に応じて応用し、翻訳しながら具体的な防災対策に活用するためには、各地域の特性をよく理解している地元の研究機関と研究者の存在が必要不可欠である。
これは単に自然災害のみならず、テロや戦争についても成り立つことである。
災害への対策は国の基本方針にもとづく都道府県の具体的な対策によって進められており、静岡県の場合には県の定めに応じてハザードマップが公表され、それにもとづく市町村の方針によって各地の住民の安全が保障されることになる。
災害は予想通りに発生するとは限らず、むしろ予想を外れて起こることの方が多い。そのため、防災対策は一方で常に基礎的な研究成果を取り込んでいくことが重要である。また、基礎研究の成果を住民が正しく理解していることが、究極の防災対策につながるという点が重要である。
基礎研究は国の研究機関や大学で行われるが、その一般化された研究成果を、地域の特性に応じて応用し、翻訳しながら具体的な防災対策に活用するためには、各地域の特性をよく理解している地元の研究機関と研究者の存在が必要不可欠である。
これは単に自然災害のみならず、テロや戦争についても成り立つことである。
グローバル地域センターの役割
静岡県の場合には、そのような地域の研究機関として静岡県立大学に付属するグローバル地域センターがある。その中には気象、海洋、固体地球の専門家の集団があり、アジア地域の社会学的分析を行う部門も、危機管理を専門とする部門もある。これほど充実した基礎研究機関を持つ自治体も珍しいと言える。
このような研究機関が単に研究の作業をするのみではなく、その成果を地元の特性に対応しながら、地域の人びとに広報しているという役目も大きな意義を持っている。さらにはこの組織が大学院生の教育を行えるように制度を整えることを私は提案したが、未だ実現していないのが残念である。次世代の研究者の育成、知識の蓄積と伝達を行うのは大学の大きな使命である。
このような機能があることによって、地域の防災力が向上するというのは、まことに重要な視点ではないだろうか。このような自治体の研究教育組織をさらに充実させ、それを国際的なモデルとして発信することができれば、これは静岡県による大きな国際貢献となりうると私は信じている。
参考文献とウエブサイト
三浦泰二「地震予知観測学習モデル校の活動の歴史」(地学教育と科学運動 51号(2006年3月))
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chitoka/51/0/51_KJ00005483716/_pdf/-char/ja
尾池和夫『中国の地震予知』(NHKブックス 1978年)
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/items/53157555-1d04-4e7a-8f6c-d4c6f95ab144
静岡県「防災・緊急情報」(2025年現在)
https://www.pref.shizuoka.jp/bosaikinkyu/index.html
浜松市「ハザードマップ(浜松市防災マップ)」(2025年現在)
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/bosai/bosai/map/
中部電力「浜岡原子力発電所について」
https://www.chuden.co.jp/energy/nuclear/hamaoka/
尾池和夫『活断層のリアル』(PHP新書 2025年)
三浦泰二「地震予知観測学習モデル校の活動の歴史」(地学教育と科学運動 51号(2006年3月))
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chitoka/51/0/51_KJ00005483716/_pdf/-char/ja
尾池和夫『中国の地震予知』(NHKブックス 1978年)
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/items/53157555-1d04-4e7a-8f6c-d4c6f95ab144
静岡県「防災・緊急情報」(2025年現在)
https://www.pref.shizuoka.jp/bosaikinkyu/index.html
浜松市「ハザードマップ(浜松市防災マップ)」(2025年現在)
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/bosai/bosai/map/
中部電力「浜岡原子力発電所について」
https://www.chuden.co.jp/energy/nuclear/hamaoka/
尾池和夫『活断層のリアル』(PHP新書 2025年)


