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日本ハラールサイエンス学会の実験的試みと展望(副センター長、特任教授 富沢寿勇)


10月22日  副センター長、国際関係学研究科長 富沢寿勇
このたび、日本ハラールサイエンス学会(Japan Society for Halal Science and Technology)なるものを立ち上げることになった。この学会設立は、実は当センターでこれまで開催してきたハラールセミナーが直接間接の機縁となった部分もあるので、学会の趣旨と活動の展望をこの場を借りて紹介しておきたい。

ハラールとはイスラームで「神に許されたもの」を、ハラール食品とはムスリム(イスラーム教徒)が摂取できる飲食物をそれぞれ意味し、ハラール産業とはムスリムが消費可能な商品の生産・供給に関わるあらゆる産業の総称である。国内外でハラール産業が近年急速に成長し、多くはハラール認証制度と連動しながら展開している。このハラール認証を科学的に裏づけるのがハラールサイエンスと称する自然科学の役割である。ここまで書くと、この学会はムスリムの商品に関わる自然科学分野の特殊な学会で、大方の人々にとって無縁の団体と思われるかもしれない。しかし、そうではない。以下説明しよう。

(ムスリムと非ムスリムの協同)
第一に、ハラール産業は消費者も生産者も、ムスリムのみならず、非ムスリムをも巻き込んで展開している。食を例にすれば、食の安全・安心、トレーサビリティなどをキーワードに、ムスリム、非ムスリム双方の消費者を想定して生産が行なわれている。またムスリムと非ムスリムの協同が事実上不可欠のものになっている企業が一般的である。

(自然科学と人文・社会科学の協同)
第二に、ハラールサイエンス学会では、自然科学・テクノロジー分野のみならず、人文・社会科学の領域も広く網羅する。つまり「ハラールサイエンス」という語をより包括的に定義している。たとえばハラールに関わる消費者や生産者の考え方や行動実態などについての社会科学的調査も広義のハラールサイエンスの中に位置づける。この視点によって、多彩な分野の科学的方法論や専門知識を駆使し、ハラールに関する諸課題についての統合的研究と実践的な貢献を同時に図る。まさに文理融合を不可欠の道具とする学会でもある。

(学術と産業・行政実務との連携)
第三に、同学会は学術研究者のみならず、食品、医薬・化粧品、農水産・畜産、服飾、物流、観光、金融、保険、経営などのさまざまな分野の実務者や認証団体、行政関係者などの参加も促す。現場の知識や経験情報は、広義のハラールサイエンスの発展にとって必須と考えるからであり、それによって専門知識や情報の精度を高めることも期待できる。その意味で文字通り産学連携に基盤をおいた学会でもある。産業実務関係者は相互に競争・利害関係にある場合も少なくないが、当学会は、ハラールに関わる諸課題をめぐり可能な限り率直な意見交換、情報共有と精緻化、問題発見と解決の場を提供し、学術上も実践上も生産的な方向性を探れる共通舞台を築いていくことを主眼としている。

このように当学会はとりあえず実験的な試みとしてスタートするもので、中味はまだいろいろ整備と検討の余地がある。他方、多少手前味噌になるが、以上のような目標と射程をもつ学会は国内外でも先駆的で画期的なものとなる。ご関心を持たれた方は11月6日に東京で学会発足記念シンポジウムを開催するので、是非積極的なご参加をお待ちしたい(シンポジウムの詳細は、http://www.jaist.ac.jp/project/halalscience/参照)。