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人文社会科学の役割とアジアを中心とした人材育成(副センター長、国際関係学部長 富沢 壽勇)




8月15日 副センター長、国際関係学部長 富沢 壽勇
 最近表明された国立大学における人文社会科学系学部や大学院に対する整理・縮小あるいは廃止を要請する国立大学法人評価委員会の方針や文部科学省の意向は、わが国の文教政策もついにここまで視野の狭い極論に達したのかという驚きと遺憾の念で受けとめた。「社会的要請の高い分野」として科学技術を中心とした自然科学系を重視するのはよいとしても、その科学技術を運用するのは人間であり、人文社会科学的な素養なくしては、適切な科学技術の展開も決して期待できない。また、「社会」は企業、財界だけで成り立っているわけでもない。広く国民一般の生活や人生の質を高め、その豊かさを担保するためにも、人文社会科学の役割は真に大きく不可欠である。すでに成熟社会を迎えていると思われていたわが国は、知らぬ間に実学重視の開発途上国に戻ろうとしているかのようである。
 そもそもこの方策は、日本産業界のガラパゴス化現象が文教政策にそのまま反映されたものと思われる。少なからずの日本企業は(従来豊かな)国内市場という閉鎖系に特化した展開を示したために、グローバル化対応で大幅に遅れた。上記政策もまったく同様で、「18歳人口の減少や人材需要(の減少?)」の危機意識から発せられたせいか、「国内市場」としての日本人学生にしか目が向けられていない印象が強い。限られた国内学生市場を国内大学間に「選択と集中」によって割り当てるという視野狭窄の前提に立っている。
 他方、アジア地域を中心にして世界人口は増加の一途であり、成長する海外の中間層の子弟で大学教育を求める人口は今後ますます増えて行く。これを考慮すれば、わが国も国外の広大な学生市場にもっと目を向けるべきである。特に近年のアジア諸国からの日本への留学生数は、理工系より人文社会科学志向の学生が上回っているという報告もある[竹内他編『人材獲得競争』2010年]。その意味では、人文社会科学を中心とした、留学生市場の開拓と海外大学との連携関係を体系的に強化して行くことも有効な打開策となる。ちなみに、現在文科省を中心に一律に進められているわが国の大学情報公開のための大学ポートレートの制度化は、日本語媒体を前提に計画が進行しているが、まずは英語等、外国語での情報発信から開始するくらいの発想の180度転換があってもよいのではなかろうか。
 先日、折しも当センター主催で国際ワークショップ「次世代のアジア研究——研究・学術交流を考える——」が開催され、中国、台湾、ベトナム、シンガポールを中心に、研究内容においても、研究活動の場においても、グローバル次元で活躍する若手・中堅の研究者を迎え、本学教員と研究交流・情報交換する有意義な機会を得た。このようなグローバル次元での学術交流や人材育成を深化させるため、人文社会科学分野を中心にアジアの諸研究機関との連携・協力関係の更なる充実化を図ることも、今後重要度を増して行くであろう。