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金融緩和頼みの経済成長は持続不可能(特任教授 柯隆)




7月12日 特任教授 柯隆
世界経済は大きな曲がり角に差し掛かっている。リーマンショック以降、主要国経済は大規模な金融緩和を頼りにして景気の落ち込みを免れてきた。具体的な金融緩和策は単なる利下げだけでなく、大規模な量的緩和も伴うものだった。カンフル剤のような金融緩和は景気のさらなる落ち込みを食い止める効果があるが、それによってもたらされる過剰流動性は過剰設備などマイナスな影響も大きい。結論からいえば、経済を持続的に発展させるには、非常識な金融緩和に頼ることはできない。

金融緩和のマイナス効果を懸念して、アメリカでは、FEBはすでに量的緩和を取りやめ、利上げも実施している。同時に、EUにおいても、金融政策を引き締めの方向へリードする検討に入っているといわれている。そのなかで、日中において金融緩和政策が続いている。

日本では、アベノミクスの成長戦略は思ったより効果が上がっていない。そのため、脱デフレを目的とする異次元の金融緩和が続いており、マイナス金利も維持されている。一方、中国では、過剰設備などの構造問題により景気が減速しているが、金融当局は量的緩和を拡大している。マネーサプライ(M2)の伸び率は実質GDP伸び率の倍に拡大し、その結果、不動産バブルは危険水域に達している。

習近平政権は初期の段階で現在減速している経済成長が「新常態」(ニューノーマル)と認識しているが、まったく正しい認識といえる。しかし、新常態においても、経済構造を合理化する必要がある。李克強首相は再三に亘って、「壮士が腕を切るような決意」で過剰設備を削減し、ゾンビ企業を閉鎖することに取り組むと豪語してきた。しかし、過剰設備もゾンビ企業も依然として温存されたままである。

2017年の秋に5年一度の共産党大会が開かれる予定である。このタイミングで景気がさらに減速し、失業問題がいっそう深刻化した場合、社会不安が増幅する恐れがある。そのなかで、中国では、景気をけん引するエンジンとして投資、消費と貿易のいずれも弱まっている。結果的に、中央銀行が進める金融緩和政策により、金融市場で生じた過剰流動性は不動産市場に流れ、不動産価格が再び上昇し、不動産投資も増加に転じている。

不動産市場のリバブル政策は明らかに危険な賭けである。もともと国有企業は債務比率が高くて、不動産市場での投資も多い。不動産バブルが崩壊した場合、中国経済のクレジットリスクが一気に高まる恐れがある。

むろん、クレジットリスクが高まるからといって、すぐさまクライシス(危機)に陥るとは限らない。これは中国の政治経済制度と関係する。

民主主義の国では、一つの金融機関が危機に見舞われた場合、政府は速やかに税金を投入してその金融機関を救済することができない。少なくとも個別な金融機関を救済する前に、議会の承認を得る必要がある。

それに対して、共産党一党支配の中国では、国有銀行が深刻なリスクに直面した場合、政府はその銀行を速やかに救済することができる。その際、全人代(議会)の承認を得る必要がなく、納税者へのアカウンタビリティが求められることもない。むろん、こうした救済策はモラルハザードをもたらす負の連鎖になる可能性がある。マクロ的にみると、足元のクライシスを回避することができるが、長期的には、リスクがさらに高まることがある。