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中国の強国復権と国力に関する考察 (特任教授 柯 隆)


1月17日 特任教授 柯 隆

 
 中国の習近平政権は強国復権の夢を実現しようとしている。習氏は自らの演説のなかで、「中国人民は毛沢東主席のおかげで立ち上がった。鄧小平のおかげで中国人民は豊かになった。それに対して、自分(習主席)の使命は中国を強くすることだ」と語った。この演説は間違いなく中国のナショナリスト(愛国者たち)を強く鼓舞しているはずである。

 しかし、習氏は一度も強国を明確に定義したことがない。毎年3月に全国人民代表大会が開かれ、新しい一年の予算案が審議される。近年、経済成長率以上に軍事予算が増額されている。この事実からすれば、習政権は軍事力の増強は強国を意味するものと思われているようだ。

 
 
 そもそも一国の国力はどのように定義されているのか。アメリカの研究者Ray S. Clineは国力を、「国力=((人口+領土)+経済力+軍事力)×(戦略目的+国家意思)」と定義している。そして、Robert W. Cox & Harold K. Jacobsonは国力について、「国力=GNP+一人当たりGNP+人口+核戦力+国際的威信」と定義している。

 Clineの定義に即していれば、人口、領土を急速に増やすことができない。経済力を強化すれば、軍事力を強化することができる。少なくとも、習政権になってからそれを目指す国家意思が明確になっている。CoxとJacobsonの定義は北朝鮮やイランなどの国に支持されるだろうが、核戦力を強化して、それが国力の増強につながるとは思えない。

 問題は中国が軍事強国になれるのか、そして、軍事強国になれたとして、ほんとうの意味での強国になれるのか。
 中国の軍事技術の多くはロシアとウクライナから来たものであり、それをもとにして中国国内で自主開発されたものも多い。しかし、ウクライナ戦争において手こずるロシアの窮状を目のあたりにして、習政権自身も自らの軍事力を疑わざるを得ないだろう。

 むろん、時系列でみれば、中国の軍事力が強化されているのは間違いない事実である。戦車や艦船および航空機の数量を数えれば、年々増えている。ここで問われているのはその質である。しかし、兵器や兵士の質は実戦でしか証明されない。

 ここで問題として提起したいのは、軍事力が強化されても、必ずしも国力の強化につながらないという点である。軍事力は敵国に脅威を与えるためである。しかし、本当の国力はどれだけ国際社会で好かれ歓迎されるかによって決まる。たとえて言えば、腕や体に刺青を掘られるマフィアは誰がみても、怖い。しかし、マフィアがどんなに強くても好かれない。したがって、国力はその国の好感度によって決まるものと考えるべきであろう。

 では、一国の好感度はどの指標によってあらわされるのだろうか。
 それについてもっとも手っ取り早くわかりやすい指標は各々の国のパスポートを持って旅行するとき、どれぐらいの国と地域でビザが免除されるかである。

 2023年世界各国パスポートのビザ免除ランキングが発表された。それによると、中国のパスポートは80か国・地域でビザが免除され、世界で64位である。台湾のパスポートは145か国・地域でビザが免除され、32位である。香港のパスポートは18位で171か国・地域でビザが免除されている。ちなみに、トップ3は次の国々である。3位はドイツ、スペインで190か国・地域でビザが免除される。2位はシンガポールと韓国で192か国・地域でビザが免除される。トップは日本で193か国・地域でビザが免除される。

 中国は世界二番目の経済力を誇示してどこへ行ってもチャイナマネーがものをいうと思われているが、ビザが免除されているのはわずか80か国・地域だけである。なぜなのだろうか。習政権になってから「戦狼外交」(wolf warrior diplomacy)が展開されている。本来、外交は友だちを増やすための仕事だが、「戦狼外交」は敵を増やしてきた。敵が増えれば、どんなに軍事力を増強しても、間に合わない。友だちが多いか、少ないかを判断する指標はそのパスポートを持って旅行するとき、ビザが免除されるかどうかである。