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なぜ中国社会は民主化しないのか (特任教授 柯 隆)


7月14日 特任教授 柯 隆

 
 中国共産党は最初から民主主義を否定したわけではない。日中戦争が終わったあと、共産党と国民党は支配権をめぐり内戦を繰り広げた。毛沢東は民主主義を約束し、幅広く支持を集め、蒋介石が率いる国民党に勝利した。しかし、権力を手に入れた毛沢東はすぐさま約束を反故にして独裁政治を展開した。

 中国社会を階層別に考察すれば、毛時代において共産党高級幹部は特権を享受できたため、共産党一党支配の政治を擁護した。のちに権力闘争のなかで彼らの一部は毛によって迫害された。共産党一党支配の政治にもっとも違和感を感じたのは知識人の層だった。だからこそ毛は、反右派闘争と文化大革命を引き起こして知識人を迫害した。中国社会の大多数を占める人民は毛が作ったプロパガンダに憧れ、知識人を弾劾する毛の呼び掛けに呼応した。毛時代の中国において自由、民主主義と法治がまったくなかった。

 1978年、鄧小平は実権を握り、改革・開放を進めた。改革・開放の真髄とはなにか。一つは権力闘争をやめよということである。むろん、権力闘争は一度もやめたことがない。もう一つは経済の自由化を進め、経済成長を実現しようと呼び掛けた。この点についてかなりの成果を上げたといえる。ただし、鄧小平は一度たりとも政治改革や言論の自由を進めようとしなかった。

 アメリカの中国通と呼ばれる専門家は中国人が豊かになれば、おのずと自由、民主主義と法治を求めるようになり、中国社会は民主化するとの仮説を立てた。しかし、このエンゲージメント仮説は見事に外れた。

 2010年、中国のドル建て名目GDPは日本を追い抜いて世界二位になった。今や中国の一人当たりGDPは1万ドルを超えた。しかし、中国社会は民主化するどころか、むしろ逆戻りしているようにみえる。なぜ中国社会は民主化しないのか。

 中国のウェブサイトは中国政府によって厳しく管理されているため、それを調べても、中国社会の内実をつかむことができない。そこで、YouTube上の中国語動画サイトを覗いてみた。すると、意外に面白い結果にたどり着いた。

 中国国内にいる中国人はYouTubeをはじめ、海外のSNSや動画サイトを自由に閲覧することが禁じられている。ごくわずかな中国人はスマホやパソコンにVPNをインストールして中国政府が設置したファイアウォールを突破してYouTube動画を閲覧しているようだが、人数的には多くないはずである。したがって、ここでの前提条件はYouTube中国語動画を閲覧しているのがほとんど海外在住の中国人ということである。

 YouTube上に中国社会の自由、民主主義と法治を議論する動画がたくさんアップされているが、その再生回数をみると、数千回ないし数万回がほとんどであり、10万回以上再生された動画はわずかしかない。すなわち、海外在住の中国人は中国社会の自由、民主主義と法治にほとんど無関心といえる。

 それに対して、YouTube上、中華料理の作り方を教える動画がたくさんアップされている。短いものは数分で、長いものでも、10分前後である。その再生回数をみると、少ないものでも、数万回、多くは数十万回、なかには百万回以上再生された料理動画も少なくない。中国人は自由、民主主義、法治よりも、料理に強い関心を払っているようだ。これでは、中国社会は民主化するはずがない。

 改革・開放してから40年経過した。生活が豊かになった中国人は自由、民主主義と法治を与えられれば、うれしいが、自らがそれを勝ち取ろうと思わない。これは中国社会の現実である。